インフルエンザ流行シーズンを前に、2025/26シーズンの対策は例年とは一線を画す「戦略的」な備えが求められています。日本小児科学会の最新指針「2025/26 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針」によれば、今シーズン流行が予想されるB型インフルエンザ(ビクトリア系統)は抗原性が変化しており、ワクチンの効果が減弱する可能性や、従来のタミフル等の感受性が変化している可能性が示唆されています。
今シーズンは「ただ打つ、ただ洗う」だけでは不十分です。B型への対策シフトと、新たに本格導入された経鼻ワクチンの使い分け、そして最新の薬剤エビデンスを理解することが、脳症や肺炎といった重症化リスクから家族を守る鍵となります。
1. 2025/26シーズンの流行予測と予防の重要性
今シーズンの最大の懸念点は、ウイルスの変異に伴う「従来の常識の通用しにくさ」です。インフルエンザは非常に強い感染力を持ち、短期間で爆発的に拡大しますが、特に乳幼児の「インフルエンザ脳症」や高齢者の「肺炎」は、生命に直結するだけでなく重篤な後遺症を残すリスクがあります。
2025/26シーズンは、抗原性の変化により一部の抗ウイルス薬が効きにくい可能性が指摘されているため、「感染させない環境管理」と、万が一の際の「薬剤の適切な選択」が例年以上に重要となります。
- B型インフルエンザ(ビクトリア系統)の抗原性が変化
- 従来の抗ウイルス薬の感受性が変化している可能性
- 環境管理と適切な薬剤選択が例年以上に重要
- 乳幼児の脳症・高齢者の肺炎への警戒が必要
2. 2025/26シーズンワクチンの決定的な変更点
今シーズンから、ワクチンの構成が従来の「4価」から「3価」に変更されました。また、2歳から19歳未満の新しい選択肢として、点鼻型の生ワクチンが本格的に導入されています。
不活化ワクチン(3価)への移行とその理由
長年、B型は「山形系統」と「ビクトリア系統」の2系統が流行していましたが、2020年3月以降、世界的にB/山形系統の自然感染例が確認されていません。これを受け、WHOの推奨に基づき、国内でもB/山形系統を除外した「A型2株・B型1株」の3価構成となりました。
「3価になったことによる不利益(保護効果の低下)はない」ということです。実臨床上、流行の可能性が極めて低い株を除外したに過ぎず、安全性や供給の安定性はむしろ向上しています。
経鼻弱毒生ワクチン(フルミスト®)の科学的優位性
新しく登場したフルミスト®は、鼻粘膜に直接噴霧する「針のない」ワクチンです。細胞性免疫も誘導するため、ウイルスの型が多少異なっても効果が期待できるのが最大の特徴です。
| 項目 | 不活化ワクチン(注射型) | 経鼻弱毒生ワクチン(フルミスト®) |
|---|---|---|
| 対象年齢 | 生後6か月以上 | 2歳以上19歳未満 |
| 主な免疫反応 | 血液中の抗体(全身免疫) | 粘膜免疫(IgA誘導)+細胞性免疫 |
| 効果の特徴 | 重症化予防が主目的 | 発症予防効果が高く、型のズレにも強い |
| 効果持続期間 | 約4〜6か月 | 約1年 |
| メリット | 接種実績が豊富、妊娠中も可 | 痛みがゼロ、ウイルスの侵入口で阻止 |
※2歳未満が対象外なのは、喘鳴(ゼーゼーする呼吸)のリスクが報告されているためです。
抗体ができるまで約2週間かかるため、ピーク前の10月から12月中旬までに完了させましょう。
3. 抗インフルエンザ薬による「曝露後予防」の最新エビデンス
家族が感染した際、同居家族への感染を防ぐ「曝露後予防投与」において、今シーズンは薬剤選択の優先順位に変化があります。
バロキサビル(ゾフルーザ®)の圧倒的優位性
最新の臨床データでは、特にB型インフルエンザに対して、バロキサビルは従来のオセルタミビル(タミフル®)を大きく上回る効果が示されています。
2025年9月より「小児用顆粒製剤」が発売されました。錠剤が飲めないお子様でも、1回の服用で治療・予防が完結できるようになった意義は大きいです。
予防投与の判断基準
日本小児科学会の指針に基づき、以下の場合に曝露後予防投与が考慮されます。
- 65歳以上の高齢者との同居
- 重症化リスクのある基礎疾患(心・腎・呼吸器疾患、糖尿病等)を持つ家族との同居
- 病院・施設内での集団発生防止
今シーズンの新機軸として、日本感染症学会はB型に対してはバロキサビルを第一選択として推奨しています。
4. 日常生活で実践すべき「環境管理」のエビデンス
空気中に漂う「マイクロ飛沫(エアロゾル)」を制御するため、科学的な換気と湿度管理を行いましょう。
効率を極める換気術
窓を少し開け続けるよりも、「短時間で窓を全開にする」方が、室温の変化を抑えつつ効率的に空気が入れ替わります。
頻度
1時間に2回以上、数分間の全開。
コツ
対角線上の2窓を開ける。窓が1つの場合はドアを開け、サーキュレーターを「窓の外」に向けて回し、強制排気を行います。
補助
寒さで十分な換気ができない場合、HEPAフィルター付きの空気清浄機の併用が有効です。
湿度管理の最適値:40%〜60%
湿度が40%を下回るとウイルスの空中生存時間が延び、鼻や喉の粘膜防御機能も低下します。加湿器は結露を防ぐため、壁際ではなく「部屋の中央」かつ「床から30cm以上の高さ」に設置してください。
室内の湿度計を設置し、常に40〜60%の範囲を維持することで、ウイルスの活性を抑え、粘膜のバリア機能を最大化できます。
5. 免疫力を支える栄養素と「根拠のない商品」への注意喚起
免疫をサポートする3つの主要栄養素
ビタミンC
白血球の機能をサポートします。健康維持の基準は1日100mgですが、感染症流行期の免疫サポートを期待するなら、専門的には1日1,000mg以上の摂取を検討すべきです。
ビタミンD
呼吸器感染症の発症を抑制します。冬場に不足しやすいため、魚類や日光浴で補いましょう。
亜鉛
新しい免疫細胞の形成と、粘膜の修復に不可欠です。
空間除菌グッズへの厳重な警告
「首掛け型空間除菌剤」等の製品には注意が必要です。主成分の「二酸化塩素」は、屋外や人の動きがある環境では十分な除菌効果を発揮できず、科学的根拠が極めて乏しいのが実情です。
「身につけるだけで除菌」といった表現は「優良誤認表示」に該当する事例が多く、専門医として推奨しません。
6. まとめ:2025/26シーズンを健康に過ごすために
今シーズンを乗り切るための3本柱を再確認しましょう。
今シーズンを乗り切る3本柱
戦略的ワクチン接種
自身の年齢や背景に応じ、不活化(3価)か経鼻(フルミスト)を選択し、12月中旬までに完了する。
根拠ある環境管理
短時間の全開換気と、40〜60%の湿度維持を徹底する。
内側からの防御
ビタミンC(1,000mg目安)、D、亜鉛を意識的に摂取する。
体調に異変を感じた際は、自己判断で市販の健康食品等に頼らず、速やかに医療機関を受診してください。最新の薬剤(バロキサビル等)の適切な使用について、主治医と相談することをお勧めします。
7. よくある質問(FAQ)
参考文献一覧
- 日本小児科学会「2025/26 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針」
- 日本感染症学会「バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ®)の使用についての提言 2025/26 シーズンに向けて」
- 厚生労働省「令和6年度インフルエンザQ&A」
- 消費者庁「新型コロナウイルス(およびインフルエンザ等)予防効果を標ぼうする商品への改善要請」
- グローバルヘルスケアクリニック/五良ファミリークリニック 院長ブログ(2025/26最新エビデンス解説)
- 吉田製薬「Y's Letter Vol.2 No.31 インフルエンザの感染予防」
- 鬼沢ファミリークリニック「インフルエンザ治療薬について【2025年版】」
- ステーションクリニック東大宮「インフルエンザ感染経路と予防法徹底解説」
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