コンプレックストレーニングとは?
こんにちは、Disport Worldです!
今回は、コンプレックストレーニング(Complex Training)について詳しく解説します。高負荷レジスタンストレーニングとプライオメトリクストレーニングを組み合わせた効果的なトレーニング方法やその理論的背景、メリット、プログラム設計のポイント、最新の研究動向、実践例、リスク管理について理解を深めましょう。
1. コンプレックストレーニングとは?
コンプレックストレーニング(Complex Training)は、主に2つのトレーニング要素を「セット内あるいは連続した順番」で行うプログラムを指します。以下の2つの要素を組み合わせて行うことが一般的です。
- 高負荷レジスタンストレーニング(重量挙上など)
- スクワットやベンチプレス、デッドリフトなど、1RMの80%以上程度の高負荷または最大付近の負荷で行う。
- プライオメトリクストレーニング(ジャンプなど爆発的・高速動作)
- ジャンプスクワットやボックスジャンプ、バウンディング、メディシンボールスローなど。
- 高速・爆発的動作で筋や腱の弾性エネルギーやストレッチ・ショートニングサイクル(SSC)を活用する。
これらをセットまたは連続した順番(例えば1セットの高負荷スクワット直後にジャンプスクワットを行う)で組み合わせることにより、ポストアクティベーション・ポテンシエーション(PAP: Post-Activation Potentiation)を引き出すという理論的背景を持ちます。PAPにより、筋力・瞬発力が一時的に高まるとされ、その結果、爆発力やパワー発揮が向上する可能性があるのです。
2. 理論的背景:PAP(ポストアクティベーション・ポテンシエーション)
2.1 PAPとは?
ポストアクティベーション・ポテンシエーション(PAP)は、高負荷の筋収縮を行ったあと、短時間休息を挟んで同じ筋群でプライオメトリックや高速挙上を行うと、神経筋機構が高い興奮状態になり、より大きな力を素早く発揮できる(RFD向上を含む)とする現象です。メカニズムは完全には解明されていませんが、主に以下が関与すると考えられています。
- ミオシン軽鎖のリン酸化
- 神経伝達の改善(シナプス伝達効率の向上)
- 運動単位の同期化・発火頻度の増加
2.2 神経的要因と筋力要因
コンプレックストレーニングでは、高負荷による最大筋力強化と、プライオメトリクスによる高速・爆発的動作の神経適応を同時に狙います。特に、高負荷種目直後のプライオメトリック種目で神経発火を最大限に引き出し、パワー向上を図るという考え方が中心です。
3. コンプレックストレーニングのメリット
3.1 パフォーマンス向上
- 垂直跳びやスプリント、アジリティなど、瞬間的に高い力を必要とする競技で成果が出やすい。
- RFD(Rate of Force Development)や最大筋力の向上にも寄与する。
3.2 効率的なトレーニング
- 高負荷種目とプライオメトリクスをセットで行うことで、短時間で両方の刺激を与えられる。
- チームスポーツなどで時間が限られている中で採用されることが多い。
3.3 神経系の活性化
- 高負荷トレーニングによる筋の「事前活性化」状態でプライオメトリクスを行うことで、より高いジャンプ力や投擲力を発揮しやすくなる(PAP効果)。
4. プログラム設計のポイント
4.1 種目の選定
最大筋力種目:
- スクワット、ベンチプレス、デッドリフト、レッグプレスなど。
- 競技特性に近い動き(バーベルスクワット → ジャンプスクワットなど)を選ぶのがおすすめ。
プライオメトリクス種目:
- ジャンプ系:ボックスジャンプ、ジャンプスクワット、バウンディング
- 上半身系:メディシンボールスロー、プッシュアップジャンプなど
- 種目は安全性と動作の類似性(「動きのパターンが近い」)を優先して選ぶ。
4.2 負荷設定
高負荷種目:
- 一般には1RMの80~90%程度で3~5レップほど。
- 競技レベルやトレーニング経験に合わせて微調整する。
プライオメトリクス種目:
- 低~中負荷か自重で、最大爆発力を出す。
- レップ数は3~6回程度で、疲労が溜まる前に休息を取るのが原則。
4.3 レストインターバル
高負荷種目 → プライオメトリクス の間に、2~3分程度の休息が効果的という研究が多いです。十分な休息を挟むことで、筋力発揮や神経興奮が高まった状態を維持しつつ、疲労を溜めすぎないようにします。
4.4 セッション内の組み込み方
ペアリング方式:
- 高負荷種目1セット → 休息 → プライオメトリクス1セット → 休息 → 次のサイクル
- 上半身・下半身で分ける、または全身で組むなどアレンジ可能。
ブロック方式:
- 高負荷種目(数セット)を行い、その後にプライオメトリクス(数セット)をまとめて行う。
- この場合はPAP効果が持続する時間を考慮し、あまり間隔を空けすぎないのが望ましい。
5. 最新の研究動向・エビデンスまとめ
5.1 パワー向上の効果
- 多くの研究で、コンプレックストレーニングはジャンプ力やスプリントなどのパワー系パフォーマンスを向上させることが示唆されています (Suchomel et al., 2016)。
- ただし、プログラムの期間(短期 vs. 長期)、選手のレベルによって効果に差がある。
5.2 休息時間(レストインターバル)の最適化
- 研究によって最適なインターバルは異なりますが、2〜8分程度が幅として提案されています。過度に短いと疲労の影響が大きく、長すぎるとPAP効果が薄れるという指摘も。
5.3 筋肥大への影響
- コンプレックストレーニングは「筋肥大」を主目的とするプログラムではありませんが、高負荷刺激と爆発的刺激を合わせることは、全体的な筋力向上に寄与し、間接的に筋量増加をサポートするケースも。
- ただし、筋肥大を最大化したい場合は従来の高ボリュームプログラムが優位とされます。
5.4 アスリートへの応用
- バレーボールやバスケットボールのジャンプ力向上、野球やハンドボールなどの投擲力向上、サッカーのスプリント力強化など、多様な競技での採用例が報告されています。
- 競技レベルが高いほどPAP効果が得られやすいとする研究もある一方、初心者はまず基礎的な筋力やフォームを固めることが優先と考えられています。
6. 実践例:コンプレックストレーニングプログラム
以下は、下半身のパワー向上を狙う中級者向けの一例です。
- 頻度:週1~2回
- セッション内容:
- ウォーミングアップ(ダイナミックストレッチ、軽負荷スクワット)
- メインコンプレックス1: バックスクワット (85%1RM x 3レップ) → ジャンプスクワット (自重or 20%1RM x 3〜5レップ) → 休息2〜3分 → 3サイクル
- メインコンプレックス2: ヒップスラスト (80%1RM x 4レップ) → ボックスジャンプ (高さ適宜、3〜5回) → 休息2〜3分 → 2サイクル
- 補助種目: 低負荷のコアトレーニング、グルート系エクササイズなど
- クールダウン: スタティックストレッチ、軽い有酸素など
- ポイント:
- 高負荷種目とプライオメトリクス種目が「同じ動作パターン(スクワット → ジャンプスクワット)」になるよう組むと効果的。
- 「動作速度の意識」「休息時間の厳守」が重要。
7. 注意点とリスク管理
7.1 フォームと安全性
- 高負荷でのスクワットやベンチプレス、プライオメトリクスはケガのリスクがあるため、正しいフォーム習得が必須。
- 膝や腰に負担をかけすぎないよう、段階を踏んで負荷を上げる。
7.2 対象者の選択
- ある程度のトレーニング経験があり、基礎筋力が確立されている中級者~上級者向け。
- 初心者にいきなりコンプレックストレーニングを行うとオーバーユースや怪我のリスクが高まる。
7.3 オーバートレーニングの回避
- 短時間で神経系に強い刺激が入るため、頻度が高すぎると中枢疲労が溜まりやすい。
- 適切な休養日や周期化を取り入れる。
8. まとめ
コンプレックストレーニング(Complex Training)は、高負荷のレジスタンストレーニングとプライオメトリクスを組み合わせ、ポストアクティベーション・ポテンシエーション(PAP)を活用してパワー発揮を向上させるトレーニング手法です。短時間で効率よく爆発力や最大筋力を高められる一方、正しいフォーム・適切な負荷設定・十分な休息が必須となります。
最新の研究でも、ジャンプ力やスプリント力の向上に有効という結果が多く出ており、アスリートや競技者のトレーニングプログラムに広く採用されています。
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