
コンプレックストレーニングとは?
こんにちは、Disport Worldです!
今回は、コンプレックストレーニング(Complex Training)について詳しく解説します。高負荷レジスタンストレーニングとプライオメトリクストレーニングを組み合わせた効果的なトレーニング方法やその理論的背景、メリット、プログラム設計のポイント、最新の研究動向、実践例、リスク管理について理解を深めましょう。
1. コンプレックストレーニングとは?
コンプレックストレーニング(Complex Training)は、主に2つのトレーニング要素をセット内あるいは連続した順番で行うプログラムを指します。以下の2つの要素を組み合わせて行うことが一般的です。
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高負荷レジスタンストレーニング(重量挙上など)
例: スクワット、ベンチプレス、デッドリフトなど、1RMの80%以上の高負荷で実施。 -
プライオメトリクストレーニング(ジャンプなど爆発的・高速動作)
例: ジャンプスクワット、ボックスジャンプ、バウンディング、メディシンボールスローなど。
高速・爆発的動作で筋や腱の弾性エネルギーやストレッチ・ショートニングサイクル(SSC)を活用します。
これらをセットまたは連続した順番(例: 高負荷スクワット直後にジャンプスクワット)で組み合わせることで、ポストアクティベーション・ポテンシエーション(PAP)が引き出され、筋力・瞬発力が一時的に向上するとされています。
2. 理論的背景:PAP(ポストアクティベーション・ポテンシエーション)
2.1 PAPとは?
PAPは、高負荷の筋収縮の後、短い休息を経て同じ筋群でプライオメトリックや高速挙上を行うと、神経筋機構が高い興奮状態となり、より大きな力を素早く発揮できる現象です。
※ 詳しいメカニズムについては、 Wikipediaの解説 を参照してください。
- ミオシン軽鎖のリン酸化
- 神経伝達の改善(シナプス伝達効率の向上)
- 運動単位の同期化・発火頻度の増加
2.2 神経的要因と筋力要因
コンプレックストレーニングでは、高負荷による最大筋力強化と、プライオメトリクスによる高速・爆発的動作の神経適応を同時に狙います。特に高負荷種目直後のプライオメトリクス種目で神経発火を最大限に引き出し、パワー向上を図る点が特徴です。
3. コンプレックストレーニングのメリット
3.1 パフォーマンス向上
垂直跳び、スプリント、アジリティなど、瞬間的な力発揮が求められる競技において効果が高いです。
RFD(Rate of Force Development)や最大筋力の向上に寄与します。
3.2 効率的なトレーニング
高負荷種目とプライオメトリクス種目をセットで行うことで、短時間で両方の刺激が得られ、特にチームスポーツなどで有効です。
3.3 神経系の活性化
高負荷トレーニングによる事前活性化状態でプライオメトリクスを行うことで、ジャンプ力や投擲力が向上しやすくなります(PAP効果)。
4. プログラム設計のポイント
4.1 種目の選定
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最大筋力種目: スクワット、ベンチプレス、デッドリフト、レッグプレスなど。
競技特性に近い動き(例:バーベルスクワット → ジャンプスクワット)がおすすめ。 - プライオメトリクス種目: ジャンプ系(ボックスジャンプ、ジャンプスクワット、バウンディング)や上半身系(メディシンボールスロー、プッシュアップジャンプ)など。
4.2 負荷設定
高負荷種目: 一般には1RMの80~90%で3~5レップ程度。
プライオメトリクス種目: 自重または低~中負荷で、3~6回程度実施し、十分な休息を取る。
4.3 レストインターバル
高負荷種目とプライオメトリクスの間には、2~3分程度の休息が効果的です。十分な休息で、筋力発揮と神経興奮の状態を維持し、疲労を防ぎます。
4.4 セッション内の組み込み方
ペアリング方式: 高負荷種目1セット → 休息 → プライオメトリクス1セット → 休息 → 次のサイクル。
ブロック方式: 高負荷種目を数セット行った後、まとめてプライオメトリクス種目を行う方法も有効です。
5. 最新の研究動向・エビデンスまとめ
5.1 パワー向上の効果
多くの研究で、コンプレックストレーニングはジャンプ力やスプリントなどのパワー系パフォーマンス向上に有効であると示唆されています。
例: Suchomel et al., 2016
5.2 休息時間(レストインターバル)の最適化
研究では2〜8分程度が提案され、短すぎると疲労が、長すぎるとPAP効果が薄れると指摘されています。
5.3 筋肥大への影響
コンプレックストレーニングは主にパワー向上を目的とするため、筋肥大を最大化する場合は従来の高ボリュームトレーニングが推奨されます。
5.4 アスリートへの応用
バレーボール、バスケットボール、野球、ハンドボール、サッカーなど、各種競技でジャンプ力や投擲力、スプリント力の向上に採用されています。
6. 実践例:コンプレックストレーニングプログラム
下半身のパワー向上を狙う中級者向けの一例です。
頻度:週1~2回
- ウォーミングアップ: ダイナミックストレッチ、軽負荷スクワットなど。
- メインコンプレックス1: バックスクワット (85%1RM x 3レップ) → ジャンプスクワット (自重or20%1RM x 3〜5レップ) → 休息2〜3分 → 3サイクル
- メインコンプレックス2: ヒップスラスト (80%1RM x 4レップ) → ボックスジャンプ (適宜の高さで3〜5回) → 休息2〜3分 → 2サイクル
- 補助種目: 低負荷のコアトレーニング、グルート系エクササイズなど
- クールダウン: スタティックストレッチ、軽い有酸素運動
ポイント: 高負荷種目とプライオメトリクス種目が同じ動作パターン(例:スクワット → ジャンプスクワット)になるように組むと効果的です。
動作速度の意識と休息時間の厳守が重要となります。
7. 注意点とリスク管理
7.1 フォームと安全性
高負荷でのスクワット、ベンチプレス、プライオメトリクスはケガのリスクがあるため、正しいフォーム習得が必須です。膝や腰に負担をかけすぎないよう段階を踏んで負荷を上げましょう。
7.2 対象者の選択
基礎筋力が確立されている中級者~上級者向け。初心者はまず基本フォームを固めることが必要です。
7.3 オーバートレーニングの回避
短時間で強い神経刺激が入るため、頻度が高すぎると中枢疲労が蓄積されます。適切な休養と周期化が重要です。
8. まとめ
コンプレックストレーニングは、高負荷のレジスタンストレーニングとプライオメトリクストレーニングを組み合わせ、PAP効果を活用してパワー発揮を向上させる手法です。
短時間で効率よく爆発力や最大筋力を高められる一方、正しいフォーム・適切な負荷設定・十分な休息が必須です。
最新の研究でもジャンプ力やスプリント力の向上に有効とされ、アスリートのトレーニングプログラムに広く採用されています。
詳しくは、Suchomel et al., 2016 や NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会) のサイトもご覧ください。