
「痛い場所」と「痛みの背景」は違うことがある。SFMA(Selective Functional Movement Assessment)は、動作パターンから身体の状態を読み解くための枠組みです。7つの基本動作・判定の見方・4分類・ブレイクアウトまで、体系的に整理します。
SFMA(Selective Functional Movement Assessment/選択的機能動作評価)は、痛みを伴う方の動作パターンを確認するために設計された枠組みです。FMS(ファンクショナル・ムーブメント・スクリーン)を生んだGray Cookらのグループによって考案され、書籍『Movement: Functional Movement Systems』(2010年)で体系化されました。
FMSが「動きの質」を確認するスクリーニングであるのに対し、SFMAは痛みのある方の動作を、全身のつながりの中で読み解くことに重点を置きます。「どこが痛いか」だけでなく「その動作の背景に何があるか」を、順を追って整理していく考え方です。
SFMAは本来、医師・理学療法士・アスレティックトレーナーなどの専門家が用いる枠組みです。判定者間の判定の一致度(再現性)については、研究では動作パターンによって「わずか〜中程度」とばらつく一方、後述のDN(機能不全・痛みなし)の特定については一致度が比較的高いと報告されています。つまり「次にどこを詳しく見るべきか」の手がかりとして実用的に使われている、という位置づけです。
本記事は一般的な情報提供であり、診断・治療を目的とするものではありません。SFMAの判定基準も、理解を助けるための概説です。痛みが強い・長引く・しびれを伴うなどの場合は、まず医療機関を受診してください。Disport Worldでは、トレーニングの可否や進め方について、必要に応じて医療機関との連携を前提にご案内します。
FMSとSFMAは、同じFunctional Movement Systemsに属する姉妹的な枠組みですが、目的が明確に異なります。痛みの有無で、どちらを使うかが分かれます。
| FMS | SFMA | |
|---|---|---|
| 対象 | 痛みのない方 | 痛みのある方 |
| 目的 | 動きの質のスクリーニング | 動作パターンの背景の確認 |
| テスト数 | 7種目 | 7つのトップティア(+ブレイクアウト) |
| 結果 | 0〜3点 × 7種目=21点満点 | FN/FP/DN/DPの4分類 |
| 主な用途 | コンディション把握・プログラム設計 | 専門家への橋渡し・トレーニング設計 |
FMSは7種目をそれぞれ0〜3点で採点し、合計21点満点で動きの質と左右差を見ます。SFMAは点数化ではなく、各動作を4分類で整理し、気になる動作を「ブレイクアウト」で深掘りしていくのが特徴です。痛みがない方の予防・設計にはFMS、痛みがある方の背景理解にはSFMA——という住み分けになります。
SFMAは、7つの基本動作(トップティアテスト)から始まります。いずれも特別な器具を使わず、全身の動作パターンを大きく捉えるための動きです。各テストには「機能的(Functional)」と見なすためのおおまかな目安(判定基準)があり、まずこの7つで全体像をつかみ、気になる動作だけを後述の「ブレイクアウト」で詳しく見ていきます。以下の基準は理解のための概説で、実際の判定は専門家が複数の角度から行います。
あごを引く・上を向く・左右を向く、首まわりの3つの動き。目安:あごが胸骨に届く/上向きは水平から約10度以内/鼻が鎖骨の中央のライン/均一なカーブで力みがない
背中側で上下から手を近づける2つの動きで、肩の内旋・外旋まわりの可動性と左右差を見ます。目安:反対側の肩甲骨の特定部位に手が届く/代償的な体幹のひねりや過度な力みがない
立位から前屈する動作。骨盤・脊柱・股関節の連動を見ます。目安:つま先に触れられる/仙骨の傾きが十分/後方への重心移動ができ、脊柱が均一に丸まる
身体を後ろに反らす動作。肩・脊柱・股関節の伸展のつながりを見ます。目安:腕を挙げて反らした際、上前腸骨棘(骨盤前部)がつま先を越え、肩甲棘がかかとを越える
身体を左右にひねる動作。骨盤から胸郭・首にかけての回旋の質と左右差を見ます。後ろから観察するのが基本です。目安:左右で十分かつ対称な回旋/代償的な傾きや力みがない
片脚でのバランス保持。安定性とバランス能力を左右で比較します。目安:開眼で10秒以上・閉眼で10秒以上保持/大きな身長の低下や崩れがない
両手を頭上に挙げたまましゃがむ動作。股関節・膝・足首の連動に加え、肩・胸椎の動きも同時に見ます。目安:股関節が平行を割る深さまでしゃがめる/拳が足の枠内で床方向に届く/横から見て姿勢の軸が崩れない
これら7つはいずれも「何回できるか」ではなく、「どのような質で動けているか」を見るためのものです。回数や強さではなく、動きのなめらかさ・左右の対称性・痛みの有無に注目します。研究では、多分節回旋が最も機能不全(左右差や制限)を示しやすく、オーバーヘッドディープスクワットが最も痛みを伴いやすい傾向も報告されています。
各動作は、「機能的か/機能不全か(Functional / Dysfunctional)」と「痛みがないか/あるか(Non-painful / Painful)」の2軸を掛け合わせ、4つに整理されます。この4分類が、次にどこを詳しく見るかの道しるべになります。
動作に制限がなく、痛みもない状態。問題のない動作として扱い、これ以上深掘りしません。
動きは十分だが痛みが出る状態。痛みの所在を示す手がかり(マーカー)として記録し、医療機関の領域として扱います。
動きに制限はあるが痛みはない状態。ここがトレーニングや改善アプローチの中心になりやすい、最も深掘りすべき領域です。
動きに制限があり痛みもある状態。原因と結果の切り分けが難しいため、まずは医療機関での確認が優先されます。
SFMAの考え方では、痛みのない機能不全(DN)こそ、改善に取り組みやすい出発点とされます。痛みのある動作(DP・FP)は原因と結果が絡み合いやすく切り分けが難しいため、まず痛みのない範囲で動作の質を整えていく——という順序を大切にします。実際、判定者間でも「どれがDNか」の判断は比較的一致しやすいことが報告されており、次の一手を決める実用的な手がかりになっています。痛みそのものへの対応は、医療機関の領域です。
SFMAの核心は「ブレイクアウト」と呼ばれるプロセスにあります。トップティアで機能不全(とくにDN)と整理された動作を、さらに細かい動作テストに分解し、その動きにくさが「どこから来ているのか」を順を追って絞り込んでいきます。
具体的には、同じ動作を条件を変えて比べます。たとえば「立って/寝て(荷重あり/なし)」「自分の力で/介助あり(能動/受動)」「片側ずつ/両側」といった具合に、フローチャートに沿って一つずつ切り分けていく——いわば、エンジニアが原因を特定するような手順です。
ブレイクアウトの目的は、動きにくさを3つの種類のいずれか(または組み合わせ)に切り分けることです。同じ「動きにくさ」でも、種類によって必要なアプローチがまったく異なります。
関節そのものの動く範囲が狭い状態。関節の構造的な制限が背景にあるため、専門家による徒手的なケアや、関節まわりのモビリティ改善が中心になります。
筋肉や筋膜など、軟部組織の伸びにくさが背景にある状態。ストレッチや組織への徒手的アプローチ、INDIBAなどによるコンディショニングが選択肢になります。
可動範囲は十分にあるのに、その範囲をうまくコントロールできない状態。正しい動きを身体に再学習させるトレーニングが中心になります。
この切り分けが重要なのは、見立てを誤ると努力が空回りするからです。たとえば「前屈で動きにくい」のが組織の伸びにくさ(TED)なら、いくら体幹の安定性トレーニング(SMCDへの対応)を積んでも改善しにくい。逆に運動制御の問題(SMCD)なのに、ひたすらストレッチをしても根本は変わりにくい。原因の種類に合わせてアプローチを選ぶ——これがSFMAの実務的な価値です。
SFMAの考え方が実際にどう役立つのか、よく見られる動作パターンの例で整理します(あくまで一般的な傾向の例示で、個々の状態は専門家が確認します)。
前屈や回旋で腰に違和感が出るケースで、ブレイクアウトを進めると股関節や胸椎(背骨の胸の部分)の可動性が不足していることがあります。本来そこで起こるべき動きが出ないぶん、腰がそれを補おうとして負担が偏る——という構図です。実際の症例報告でも、痛みの場所(腰)から離れた胸椎・股関節の可動性制限が背景にあり、腰椎が過剰に動いて代償していた、というケースが報告されています。
腕を頭上に挙げる動きがつらいケースで、肩そのものより胸椎が硬くて伸展しにくいことが背景にある場合があります。胸椎が反れないと、腕を上げるための土台が作れず、肩関節だけに負担が集中しやすくなります。
深くしゃがむと膝に違和感が出るケースで、足首の背屈(すねを前に倒す動き)が硬いことが背景にあることがあります。足首で吸収すべき動きが出ないと、膝や腰がそのぶんを補おうとして負担が偏ります。
いずれの例も、「痛む場所=原因の場所」ではないという点が共通しています。SFMAは、この「ずれ」を動作から読み解くための枠組みなのです。
こうした例の土台にあるのが「領域間相互依存(Regional Interdependence)」という考え方です。これは、身体のある部位の動きが、離れた別の部位の動きや負担に影響するという見方を指します。SFMAの最大の特徴とも言われる概念です。
足首が硬いとしゃがむ動作で膝や腰が代償する。胸椎が硬いと肩や腰がその分を担う。股関節が動きにくいと腰がそれを補う——身体は一つのつながりとして動くため、ある場所の制限は、必ずどこか別の場所の負担として現れます。「痛む場所」だけを見るのではなく、全身のつながりの中で動作を捉える——これが、痛む場所と背景が一致しないケースを読み解く鍵になります。
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動作パターンを確認しても、そこで終わっては意味がありません。SFMAの考え方の良さは、「次に何をすべきか」が見立てから自然に導かれることにあります。前述のJMD・TED・SMCDという切り分けが、そのままアプローチの選択につながります。
| 動きにくさの種類 | 主なアプローチ(例) |
|---|---|
| 関節可動性(JMD) | 専門家による関節モビリティのケア、可動域を引き出す動き |
| 組織伸張性(TED) | ストレッチ、軟部組織への徒手的アプローチ、INDIBAによるコンディショニング |
| 安定性・運動制御(SMCD) | 正しい動きの再学習、体幹の安定性トレーニング、段階的な負荷設定 |
SFMAの治療階層には「痛みのない機能不全(DN)から整える」「可動性を先に、安定性を後に」という大まかな順序の考え方があります。土台となる可動性が不足したまま安定性や筋力を上乗せしても、崩れた土台の上に積み上げることになりかねないためです。動きの土台を整えてから、その上に強さやパフォーマンスを積み上げる——この順序が、遠回りに見えて確実な道になります。
ここで挙げたアプローチは一般的な例です。痛みを伴う動作(DP・FP)への対応や、痛みそのものの診断・治療は医療機関の領域です。Disport Worldでは、痛みがある場合はまず医療機関の受診をおすすめし、許可や方針を前提に、痛みのない範囲でのトレーニングを設計します。
Disport Worldでは、痛みのない方にはFMS、痛みのある方にはSFMAの考え方をベースに、身体の動作を丁寧に確認します。さらにゴルフに取り組む方には、TPI(Titleist Performance Institute)のスクリーニングを組み合わせます。FMS・SFMA・TPIという複数の枠組みを一貫した視点で扱い、少数精鋭の担当制で、確認からトレーニング設計までを同じ担当が継続して見ていくため、「確認して終わり」ではなく、その後のトレーニングに自然につなげられます。
腰・肩・膝などに痛みや動きにくさを感じる方が、自分の動作パターンを知る手がかりになります。「痛む場所」と「その背景」が違うケースを、全身のつながりから整理できます。ただし痛みの診断・治療は医療機関の領域のため、痛みが強い・長引く場合はまず受診をおすすめします。
FMSは痛みのない方の動きの質を見るスクリーニング(21点満点のスコア)、SFMAは痛みのある方の動作パターンを全身のつながりから読み解く枠組み(FN/FP/DN/DPの4分類)です。Disport Worldでは、痛みの有無や目的に応じて使い分けます。
ブレイクアウトで動きにくさを切り分ける3つの種類です。JMDは関節可動性、TEDは組織(筋肉・筋膜)の伸張性、SMCDは安定性・運動制御の問題を指します。同じ「動きにくさ」でも種類によって必要なアプローチが異なるため、この切り分けが改善の方向を決める手がかりになります。
動作の確認は「どう動けているか」を把握し、安全で目的に合ったトレーニング設計につなげるためのものです。痛みや疾患の診断・治療は医師など医療機関が行う領域です。Disport Worldでは線引きを大切にし、必要に応じて医療機関との連携を前提にご案内します。
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JSPO-AT × TPI Level 2 × NASM-PES × INDIBA PRO MAXの4資格をすべて保有するのは岡本隼人ただ一人。2016年、六本木にDisport Worldを開設。23年・累計20,000セッション超の指導歴で、トップ選手・著名な方から、身体の動きに悩む方まで幅広い層をサポートしてきた。プロフィール →
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