・肩甲骨は肋骨の上を滑る骨で、「寄せる(内転)」「下げる(下制)」「上に回す(上方回旋)」を組み合わせて動く。どれか1つを意識するものではない
・TPIの3テスト:90/90テスト(肩の外旋と肩甲骨の安定性)、ラットテスト(腕を上げる可動域と広背筋)、オーバーヘッド・ディープスクワット(肩・胸椎の左右対称性)
・肩甲骨の安定性が落ちると、肩の外旋が減り、右肘が浮く(フライングエルボー)。広背筋が硬いと前傾が保てない(ロスオブポスチャー、フラットショルダープレーン)
・肩はゴルフの怪我の8〜18%。猫背姿勢では肩の外転可動域が平均23.6度減り、筋力が16.2%落ちるという報告がある(34名)
・「肩甲骨の下が痛い」は肩甲骨そのものより、胸椎の回旋不足を肩甲骨まわりの筋肉が代償している場合が多い
・順序は「胸椎の伸展・回旋 → 肩甲骨の安定 → 肩の可動域 → スイングで使う」
肩甲骨はどう動く骨なのか
結論から言うと、肩甲骨は肋骨の上を滑って動く骨で、それ自体が固定された関節を持ちません。だから「安定させる」ことと「動かす」ことの両方が必要になります。
| 肩甲骨の動き | レッスンの言葉 | スイングでの役割 |
|---|---|---|
| 内転(背骨に寄る) | 「寄せる」「引く」 | バックスイングで右肩甲骨が寄り、胸が開く。トップで上体を回し切るための土台 |
| 下制(下がる) | 「下げる」「なで肩に」 | 肩がすくむのを防ぎ、肩関節が動ける向きに関節窩を保つ。腕の力みを減らす |
| 上方回旋(外側に回る) | —(意識されにくい) | 腕を上げるときに必ず起きる動き。これがないと腕だけで上げて肩を痛める |
| 外転(背骨から離れる) | 「肩甲骨を開く」 | フォローで左肩甲骨が離れ、腕が伸びていく。左肩甲骨が離れないとチキンウィングになる |
日本のレッスン記事では、バックスイングで左右の肩甲骨が近づくように「引く・寄せる」動きと、なで肩のように「下げる」意識が説明されています。下げることで肩甲骨が開閉しやすくなり、手打ちや起き上がりの防止になる、という説明です。どちらも正しい。問題は、その動きを肩甲骨ができる状態にあるか、です。
「寄せる」と「下げる」はどちらが正しいのか
結論から言うと、どちらか一方ではなく「下げた状態で寄せる」が正解で、しかもそれは意識で作るものではありません。肩甲骨が上がったまま(すくんだまま)寄せると、肩関節の受け皿である関節窩の向きが変わり、肩の外旋が制限されます。TPIは、肩甲骨の安定性が落ちて挙上・翼状化すると外旋が減ると説明しています。
では下げる意識だけでよいかというと、そうでもありません。腕を上げる動作には肩甲骨の上方回旋が必ず伴います。下げることだけを意識して肩甲骨を固めると、上方回旋が起きず、腕だけで上げることになって肩を痛めます。バックスイングで肩甲骨が「下がりながら寄る」、フォローで「下がりながら離れる」。この2つが自然に起きる身体が、レッスンで言われる肩甲骨の使い方の前提です。
TPIはこの前提を「肩甲胸郭関節の安定性」と呼び、90/90テストで確認します。肩甲骨が安定していないゴルファーは、立った状態では肩が外旋できても、アドレス姿勢を取ると外旋が減ります。肩甲骨が肋骨の上で位置を保てないからです。
肩甲骨とスイングエラーの対応(TPI)
| スイングエラー | 何が起きているか | TPIが挙げる身体側の原因 | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|
| フライングエルボー | トップで右肘が浮く | 肩の可動域制限。肩甲骨の安定性が落ちると肩関節が外旋できない位置に入り、肘が浮く。胸椎の制限も間接的に影響 | フライングエルボーの直し方 |
| チキンウィング | インパクト後に左肘が引ける | 左肩がインパクトを通過して外旋できない。左肘の外側に大きなストレスがかかり、テニス肘の前段階になりうる | チキンウィングの直し方 |
| ロスオブポスチャー | スイング中に前傾が崩れる | 上体と骨盤の分離不足。原因は脊柱の可動性低下と広背筋の短縮 | ロスオブポスチャーの直し方 |
| フラットショルダープレーン | 肩が横回転になる | ロスオブポスチャーと同じ。診断テストにラットテストと90/90テストが挙げられている | フラットショルダープレーンの直し方 |
広背筋は肩甲骨の下から腰まで伸びる大きな筋肉で、硬くなると腕を上げるときに背中が反り、前傾を保てなくなります。TPIは、硬い広背筋がバックスイングでの姿勢維持に影響すると説明しています。「肩甲骨の使い方」の問題に見えるエラーの多くが、実は広背筋と胸椎の問題です。
90/90テスト、ラットテスト、オーバーヘッド・ディープスクワットを含む16項目を実測し、肩・胸椎・広背筋のどこが制限になっているかを左右差まで数値でレポートPDFにしてお渡しします。
TPIフィジカルアセスメントの詳細を見る肩甲骨の下が痛い——原因は肩甲骨ではないことが多い
結論から言うと、「肩甲骨の下(内側)が痛い」の多くは、肩甲骨そのものではなく、胸椎が回らない分を肩甲骨まわりの筋肉(菱形筋・僧帽筋など)が引き受けているために起きます。胸椎の回旋が足りないゴルファーは、肩甲骨を過剰に寄せて上体を回したように見せるか、腰椎で回すか、どちらかで代償します。前者が肩甲骨の内側の痛み、後者が腰痛です。
猫背姿勢の影響も大きい。34名を対象にした研究(Kebaetse ら、1999)では、猫背の姿勢では肩の外転可動域が平均23.6度減り、筋力が16.2%落ちました。猫背では肩甲骨が上がり、前に傾く。その状態でバックスイングを繰り返せば、肩甲骨まわりに負担が集中します。肩の痛みそのものについてはゴルフで肩が痛い——左肩と右肩で原因が違う、首と背中の痛みはゴルフで首・背中(肩甲骨の下)が痛いで詳しく扱っています。
自宅で確かめる3つのテスト
90/90テスト——肩の外旋と肩甲骨の安定性
右腕を横に90度上げ、肘を90度曲げる。背中を反らさずに前腕を後ろへ倒す(外旋)。立った状態と、5番アイアンを構えたアドレス姿勢の両方で行う。TPIの基準は、前腕が背骨のライン(アドレスでは前傾角)を越えること。立位では越えるのにアドレスで越えなくなる人は、肩甲骨の安定性が落ちています。左腕も同様に。
ラットテスト——腕を上げる可動域と広背筋
壁に背中をつけて半分しゃがんだ姿勢を取り、両腕を前に水平に伸ばす(親指が上、肘は伸ばす)。腰を壁から浮かせず、肘を曲げずに、両腕を頭の上まで上げていく。合格は、肘が曲がらず腰が反らないまま親指が壁に触れること。途中で腰が浮く、肘が曲がる、痛みが出る、のどれかで止まれば、広背筋か肩関節か肩甲骨の可動域に制限があります。
オーバーヘッド・ディープスクワット——肩と胸椎の左右対称性
クラブを頭の上で持ち、かかとを着けたまま深くしゃがむ。TPIはこのテストで、下半身に加えて肩と胸椎の左右対称な可動性を見ています。クラブが前に倒れる、片側だけ腕が下がる、という人は肩か胸椎に左右差があります。中止条件は、痛み、かかとが浮く、クラブが前に倒れる、バランスを崩す、の4つ。
3つとも合格なら、肩甲骨の課題は技術と感覚の側にあり、レッスンで直ります。1つでも不合格なら、意識だけで寄せたり下げたりしても、その動きを身体が実行できません。16項目全体はTPI 16項目の全解説にまとめています。
練習の順序——胸椎、安定、可動域、スイング
胸椎の伸展と回旋を出す
肩甲骨は胸椎の上に乗っています。胸椎が丸まったままでは、肩甲骨を下げても寄せても、正しい位置には行きません。仰向けで丸めたタオルを背中の上部に当てて両腕を上げる、四つ這いで片腕を天井に向けて開く(オープンブック)、の2つを毎日5分。胸椎の詳しい扱いはゴルフの胸椎の回し方で解説しています。
肩甲骨の安定性を作る
壁に手をついて肩甲骨だけを寄せる・離す(プッシュアッププラス)、うつ伏せで腕をY・T・Wの形に上げる。肩をすくめずに、肩甲骨が肋骨の上で位置を保ったまま動く感覚を作ります。ここが90/90テストの結果を変える段階です。
肩の可動域と広背筋
半座位で壁に背をつけてのラットストレッチ(ラットテストそのものが練習になる)、ドア枠での胸のストレッチ。広背筋が伸びると、前傾を保ったまま腕を上げられるようになります。
スイングで使う
ここからがレッスンプロの領域です。バックスイングで右肩甲骨が「下がりながら寄る」、フォローで左肩甲骨が「下がりながら離れる」。①〜③が整っていれば、この2つは意識しなくても起きます。
現場で見えていること
「肩甲骨を寄せろと言われるができない」と相談される方を測ると、90/90テストで立位は合格、アドレスで不合格という方が多くいます。可動域はあるのに、前傾するとすくんでしまう。この方は寄せる練習ではなく、肩甲骨を下げたまま保つ安定性の練習が必要です。逆に、立位でも不合格の方は、肩甲骨より先に胸椎の伸展が足りない。胸椎を伸ばすと、何もしなくても90/90が通るようになる方もいます。
「肩甲骨の下が痛い」で来られる方は、ほぼ例外なく座位体幹回旋テストで45度に届きません。胸椎が回らない分を肩甲骨まわりで引き受けている。痛みのある場所を揉んでも、回らない胸椎が変わらなければ繰り返します。肩甲骨に見える問題の出どころが胸椎にある。ここが、痛い場所だけを見ても解決しない理由です。レッスンコーチとの連携も可能で、役割の分担はゴルフのパーソナルトレーニングにまとめました。
よくある質問
肩甲骨は「寄せる」と「下げる」、どちらを意識すればいいですか?
どちらか一方ではなく「下げた状態で寄せる」です。肩甲骨がすくんだまま寄せると肩の外旋が制限され、右肘が浮きやすくなります。ただし意識で作る前に、90/90テストとラットテストで、その動きができる身体かを確かめてください。
ゴルフで肩甲骨の下が痛くなるのはなぜですか?
胸椎の回旋が足りない分を、肩甲骨まわりの筋肉が代償していることが多いです。座って上体を左右45度回せない人は、肩甲骨を過剰に寄せて回したように見せるか、腰で回すかで補います。前者が肩甲骨の内側の痛みになります。痛みが数日以上続く、しびれがある場合は整形外科を受診してください。
肩甲骨のストレッチをすればトップが深くなりますか?
肩甲骨だけをストレッチしても、胸椎が丸まったままなら肩甲骨は正しい位置に行きません。順序は胸椎の伸展・回旋が先、次に肩甲骨の安定性、その後に肩の可動域です。また、柔軟性そのものはヘッドスピードと関係しない(20研究のメタ分析でr=−0.04)ため、可動域が出たあとに使う練習が必要です。
右肘が浮くのは肩甲骨のせいですか?
TPIは、肩甲骨の安定性が落ちると肩関節が外旋できない位置に入り、肘が浮くと説明しています。胸椎の制限も間接的に影響します。90/90テストで右腕がアドレス姿勢で前傾角を越えられないなら、その可能性が高いです。
猫背だとゴルフにどう影響しますか?
猫背の姿勢では肩の外転可動域が平均23.6度減り、筋力が16.2%落ちるという研究(34名)があります。肩甲骨が上がって前に傾いた状態でバックスイングを繰り返すと、肩甲骨まわりに負担が集中します。アドレスで肩が前に丸まるCポスチャーはCポスチャーとSポスチャーで扱っています。
体験のご案内
肩甲骨を寄せろ、下げろと言われ続けて変わらないなら、その動きができる身体になっているかを一度確かめてください。体験セッションでは、肩の外旋・肩甲骨の安定性・広背筋・胸椎を測り、何から手を付けるべきかをその場でお伝えします。
First Trial
肩甲骨が「動かない」のか「安定しない」のかを
身体から見つける90分
カウンセリング・身体評価・トレーニング体験まで。体験後に入会を決めていただく必要はありません。基本的に代表の岡本隼人が担当します。
ウェア・タオル無料 | 完全個室 | 六本木駅徒歩4分
- Titleist Performance Institute. The 90/90 Test/The Lat Test/The Overhead Deep Squat Test/Flying Elbow/Loss of Posture/Flat Shoulder Plane/The Role of the Shoulder Girdle in the Golf Swing/What the Lat Test Means for Your Swing/Is Your Golf Swing Putting Your Shoulder at Risk(mytpi.com)。肩はゴルフの怪我の8〜18%。
- Kebaetse M, McClure P, Pratt NA. Thoracic position effect on shoulder range of motion, strength, and three-dimensional scapular kinematics. Arch Phys Med Rehabil. 1999;80(8):945-950.(n=34。猫背姿勢で肩外転可動域が平均23.6度減、筋力16.2%低下)
- Kim DH, Millett PJ, Warner JJ, Jobe FW. Shoulder injuries in golf. Am J Sports Med. 2004;32(5):1324-1330.
- McHardy A, Pollard H, Luo K. Golf injuries: a review of the literature. Sports Med. 2006;36(2):171-187.
- Pink M, Jobe FW, Perry J. Electromyographic analysis of the shoulder during the golf swing. Am J Sports Med. 1990;18(2):137-140.
- Brennan A, et al. Physical determinants of golf swing performance: a systematic review and meta-analysis. Sports Medicine. 2024;54(6):1553-1577.(柔軟性とヘッドスピード r=−0.04)

