・体幹の回旋は胸椎で起きるべき動き。腰椎の回旋は全体で約13度、分節あたり2度(T10〜L5)。TPIは「分節あたり3度を超える回旋は代償と怪我のリスク」と説明
・競技ゴルファー98名の実測:胸椎回旋は左36.6度・右38.8度で、左右差は有意(p=0.024)。繰り返しのスイングで非対称になる
・TPI座位体幹回旋テストの基準は左右45度。届かないと腰椎の回旋力が過剰になるか、肩関節で代償する
・猫背(Cポスチャー)で最も大きい関節制限は胸椎の伸展不足。伸展できない胸椎は回旋もできず、バックスイングが浅くなる
・柔軟性そのものはヘッドスピードと関係しない(メタ分析r=−0.04)。胸椎の可動域は「飛ぶ要素」ではなく「腰を守りながら回るための前提」
・順序は「伸展を出す → 回旋を出す → 骨盤を止めて回す分離 → スイング」
上体の回転はどこで起きるべきか
結論から言うと、胸椎です。背骨は頸椎7個・胸椎12個・腰椎5個で構成され、回旋に向いた構造を持つのは胸椎です。腰椎は関節面が縦向きで、回旋にはほとんど対応していません。TPIの記事(Sahrmannの引用)では、腰椎の回旋は全体で約13度、T10からL5の各分節間は2度、最も大きいL5-S1でも5度とされ、「体幹の回旋の最大の場所は腰椎ではなく胸椎であるべき」と説明されています。
| 部位 | 回旋の目安 | ゴルフでの役割 |
|---|---|---|
| 胸椎(12個) | 片側30〜35度(教科書値)。ゴルファー実測で36〜39度 | バックスイングの上体の回転の主役。肩甲骨と肩関節の土台 |
| 腰椎(5個) | 全体で約13度、分節あたり約2度 | 回旋ではなく安定。ここで回すと腰痛の原因になる |
| 骨盤・股関節 | —(股関節の内旋・外旋で骨盤が回る) | 下半身の回転。詳しくは股関節の記事へ |
日本のトレーナーの記事でも「腰椎は全体で5度ほど、胸椎は35度動く」という説明が定着しています。数値は測り方で多少変わりますが、方向は同じです。上体を回そうとして腰をひねっている人は、回旋に向かない場所に負担を集めています。
胸椎はどれだけ回るのか——目安と実測値
競技レベルの男性ゴルファー98名をデジタル角度計で測った研究(2025年、南アフリカ)では、胸椎の回旋は左36.6度、右38.8度でした。平均で2.2度の左右差があり、これは統計的に有意でした(p=0.024)。研究者は、練習とプレーで同じ方向へ回し続けることで非対称が生まれ、「脊柱・肩・股関節の怪我のリスクを高めうる」と述べています。
| データ | 値 | 測り方 |
|---|---|---|
| 競技ゴルファー98名(2025) | 左36.6度・右38.8度 | デジタル角度計、3回平均 |
| 健常成人46名(Johnson 2012) | ランバーロック位で40.8度 | 四つ這いで腰椎を固定して回す |
| ジュニアゴルファー45名(2025) | 約48〜52度 | 介入研究のベースライン |
| TPI座位体幹回旋テスト | 基準:左右45度を越える | 座位・膝と足をそろえ、クラブを肩に担いで回す |
測り方が違うので数値を直接比べることはできませんが、「大人のゴルファーで片側35〜40度前後、TPIの基準は45度」と覚えておけば十分です。なお、測定誤差の目安は約5.5度とされており、それ未満の変化は改善とは言えません。
胸椎が回らないと何が起きるか
TPIは座位体幹回旋テストで45度に届かない人について、「過度な腰椎の回旋力を生じさせるか、肩関節を過剰に使って代償する」と説明しています。つまり出口は2つです。
腰椎で回す → 腰痛
胸椎が回らない分を腰椎が引き受けます。分節あたり3度を超える回旋は代償と怪我のリスクになるとTPIは説明しており、これが「ゴルフで腰が痛い」の代表的な構造です。ゴルフの腰痛は「腰」が原因ではないで詳しく扱っています。
肩と腕で回す → 手打ち・肩甲骨の痛み
上体が回っていないのに肩甲骨を寄せて回したように見せる、あるいは腕だけを上げてトップを作る。手打ち、肩甲骨の内側の痛み、フラットショルダープレーンにつながります。肩甲骨の使い方で書いた「肩甲骨の下が痛い」の出どころは、多くがここです。
もう1つ、捻転差の問題があります。捻転差は骨盤を止めて上体を回すことで生まれますが、胸椎が回らなければ骨盤を一緒に回すしかなく、捻転差は消えます。捻転差(X-Factor)は本当に必要かで書いたとおり、捻転差を作れない身体の第一の原因が胸椎の回旋不足です。
猫背(Cポスチャー)と胸椎の伸展
結論から言うと、回旋の前に伸展です。TPIはCポスチャー(アドレスで肩が前に落ち、背中の上部が丸まった姿勢)について、「最も大きい関節の制限は胸椎の伸展不足」で、それが「脊柱の回旋の大幅な低下につながり、良いバックスイングの回転を作る能力を制限する」と説明しています。丸まった胸椎は回りません。だから猫背の人が回旋のストレッチだけをやっても、可動域は増えにくい。
TPIがCポスチャーに勧めているのは、胸椎の伸展エクササイズ(プレスアップ、リーチバック、うつ伏せから仰向けへのローリングなど)と、胸の可動性エクササイズ(90/90の大胸筋ストレッチ、オープンブックなど)です。デスクワークの多い方は、ほぼ例外なくここから始める必要があります。姿勢の分類はCポスチャーとSポスチャーで扱いました。
座位体幹回旋(基準45度)、上体回旋、骨盤回旋、オーバーヘッド・ディープスクワットを含む16項目を実測し、左右差まで数値でレポートPDFにしてお渡しします。
TPIフィジカルアセスメントの詳細を見る自宅で確かめる2つのテスト
座位体幹回旋テスト——胸椎の回旋可動域
椅子に座り、膝と足をそろえる。クラブを肩に担ぐように両腕で支え(腕はWの形)、下半身を動かさずに上体を左右に回す。床にクラブを2本置いて45度の角度を作り、その線を左右とも越えられれば合格。片側だけ届かない場合は左右差、両側届かない場合は胸椎全体の制限です。回すときに腰が反る、骨盤が動く人は、腰椎で代償しています。
上体回旋テスト——骨盤を止めて回せるか
アドレス姿勢で腕を胸の前で組み、骨盤を動かさずに胸と肩だけを左右に回す。TPIの合格基準は「腰より下がまったく動かず、胸郭と肩だけが回る」こと。①は合格なのに②で骨盤が一緒に動く人は、可動域はあるが上下を分離して使えていない状態で、必要なのはストレッチではなく分離のドリルです。
16項目全体はTPI 16項目の全解説にまとめています。
毎日5分の胸椎エクササイズ——順序
TPIが胸椎の可動性向上に挙げている種目(テニスボールでの脊柱モビリティ、オープンブック、アンチローテーション・プランクロウ、リーチバック、スパイダーマンストレッチ)を、当ジムでは次の順序で組んでいます。週3回以上、できれば毎日。
伸展を出す(2分)
仰向けで丸めたタオルかフォームローラーを背中の上部(肩甲骨の下)に横に当て、両腕を頭の上に伸ばして胸を開く。当てる位置を2〜3か所ずらす。四つ這いで背中を丸める・反らせるを10回。猫背の人はこの段階だけで回旋が数度増えることがあります。
回旋を出す(2分)
横向きに寝て両膝を90度に曲げ、上の腕を本を開くように反対側へ開く(オープンブック)。左右10回ずつ。四つ這いで片手を後頭部に置き、肘を天井に向けて回す(リーチバック)。膝と骨盤を動かさないことが条件で、腰が動くやり方では胸椎は動きません。
骨盤を止めて回す(1分)
アドレス姿勢で腕を胸の前で組み、骨盤を止めたまま上体だけを回す(上体回旋テストそのものが練習になります)。ここで初めて、出した可動域がスイングで使える形になります。
ゴルフ専用の8週間プログラム(週3〜4回)で、体幹・肩・股関節の柔軟性が有意に改善し、クラブスピードと飛距離も増えたという研究(Lephart ら、2007、15名)があります。ただしこれは筋力とパワーの種目を含むプログラムの結果で、ストレッチ単独の効果ではありません。
「柔らかくなれば飛ぶ」ではない
20研究のメタ分析(2024)で、柔軟性の指標(座位体幹回旋を含む)とヘッドスピードの相関はr=−0.04、つまり関係がありませんでした。胸椎の可動域を増やしても、それだけで飛距離は伸びません。では何のためにやるのか。腰椎で回さずに済むようにするため、そして捻転差と肩甲骨の動きの土台を作るためです。可動域は「飛ぶ要素」ではなく「壊さずに回るための前提」です。飛距離を決める要素はヘッドスピードの平均|年齢別データの研究の章にまとめました。
現場で見えていること
当ジムで座位体幹回旋テストを測ると、40代以降のデスクワークの方は45度に届かないことが大半で、しかも右回旋(右打ちのバックスイング方向)だけが届かないという左右差が多い。バックスイングで胸椎が回らない分、肩甲骨を寄せて回したように見せているか、腰で回しているか。前者は肩甲骨の内側の痛み、後者は腰痛として現れます。
この方たちに最初にやってもらうのは、回旋ではなく伸展です。タオルを背中に当てて胸を開くだけで、再測定で回旋が増える方が珍しくありません。丸まった胸椎は回らない、伸ばせば回る。逆に、可動域はあるのに上体回旋テストで骨盤が一緒に動く方は、ストレッチを増やしても変わらず、分離のドリルで変わります。同じ「上体が回らない」でも、手当てが違う。ここを最初に切り分けるために、測ってから始めています。レッスンコーチとの連携も可能で、役割の分担はゴルフのパーソナルトレーニングにまとめました。
よくある質問
胸椎は何度回れば十分ですか?
TPIの座位体幹回旋テストの基準は左右45度です。競技ゴルファー98名の実測は左36.6度・右38.8度で、大人のゴルファーは片側35〜40度前後が多いと考えられます。測り方で数値が変わるので、同じ方法で左右差と変化を追うことが大切です。
腰を回す意識と胸を回す意識、どちらが正しいですか?
胸(胸椎)です。腰椎は全体で約13度、分節あたり2度ほどしか回らず、回旋に向いた構造ではありません。腰を回す意識で上体を回すと、回旋に向かない腰椎に負担が集まり、腰痛の原因になります。
胸椎のストレッチをしても回旋が増えません。
伸展が出ていない可能性があります。丸まった(猫背の)胸椎は回旋できません。TPIもCポスチャーの最大の制限は胸椎の伸展不足だと説明しています。回旋の前に、タオルやフォームローラーで胸椎の伸展を出してから回旋のエクササイズをしてください。
胸椎が柔らかくなれば飛距離は伸びますか?
柔軟性そのものはヘッドスピードと関係しない(メタ分析でr=−0.04)というのが研究の結論です。胸椎の可動域は、腰を守りながら回るための前提であり、捻転差や肩甲骨の動きの土台です。可動域が出たあとに、分離のドリルと回旋パワーの練習が必要です。
左右で回りやすさが違います。問題ですか?
ゴルファーには多い状態です。競技ゴルファー98名の実測でも左右差は有意でした。研究者は非対称が脊柱・肩・股関節の怪我のリスクを高めうると述べています。回りにくい側を多めにエクササイズし、同じ方法で左右差を追ってください。
体験のご案内
「もっと上体を回して」と言われ続けて回らないなら、どこで回しているのか、どこが回らないのかを一度測ってください。体験セッションでは、胸椎の伸展と回旋、上体と骨盤の分離を測り、腰で代償していないかを含めて、何から手を付けるべきかをその場でお伝えします。
First Trial
上体を「どこで」回しているかを
身体から見つける90分
カウンセリング・身体評価・トレーニング体験まで。体験後に入会を決めていただく必要はありません。基本的に代表の岡本隼人が担当します。
ウェア・タオル無料 | 完全個室 | 六本木駅徒歩4分
- Titleist Performance Institute. The Seated Trunk Rotation Test/The Torso Rotation Test/5 Exercises for Increasing Thoracic Spine Mobility in Your Golf Swing/How to Improve Rotation While Protecting Your Lower Back(Sahrmann引用:腰椎全体約13度・T10〜L5分節間2度)/C-Posture(mytpi.com)。
- Thoracic rotation in competitive golfers(n=98、2025). PMC12327880.(左36.6±9.8度・右38.8±10.5度、左右差p=0.024)
- Johnson KD, et al. Reliability of thoracic spine rotation range-of-motion measurements in healthy adults. J Athl Train. 2012;47(1):52-60.(n=46。ランバーロック位40.8±10.7度)
- Lephart SM, et al. An eight-week golf-specific exercise program improves physical characteristics, swing mechanics, and golf performance in recreational golfers. J Strength Cond Res. 2007;21(3):860-869.
- Brennan A, et al. Physical determinants of golf swing performance: a systematic review and meta-analysis. Sports Medicine. 2024;54(6):1553-1577.(柔軟性 r=−0.04)
- Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal System. 2010.(胸椎片側30〜35度・腰椎5〜7度の教科書値)

