・「乗る」=股関節を曲げて体重を受ける、「入れる」=骨盤を前傾させて股関節を屈曲位に置く、「回す」=股関節の内旋・外旋。3つは別の動き
・スイング中、リード側(右打ちの左)の股関節はダウンスイングで内旋を約35度使う。これは持っている可動域の84〜131%、つまり上限ぎりぎりか上限を超えた量(女子大学生ゴルファー15名の実測)
・股関節内旋が20度未満のプロは、腰椎の屈曲・回旋・側屈で代償していた(男子プロ30名、AJSM 2015)
・腰痛のあるアマチュアは、リード股関節の内旋が約10度少ない(21度対31度、Phys Ther Sport 2009)
・TPIの「下半身回旋テスト」の基準は左右とも60度以上。足りないとスウェーとスライドが出やすい
・順序は「可動域を確保 → 乗る感覚を身体で覚える → スイングで使う」。可動域がないまま意識だけで直そうとすると、腰で代償する
「乗る」「入れる」「回す」は何が違うのか
結論から言うと、この3つは股関節の別々の動きを指しています。混ぜて理解すると、どれも中途半端になります。
| レッスンの言葉 | 身体の動き | どの局面か | できないときに起きること |
|---|---|---|---|
| 股関節に乗る | 股関節を曲げた状態で片側の脚に体重を受け、その上で骨盤が回る | バックスイングは右(トレイル側)、ダウン〜フォローは左(リード側) | 体重が足の外側へ逃げる(スウェー)、左に乗れない(ハンギングバック) |
| 股関節を入れる | 骨盤を前傾させ、股関節を屈曲位に置く。お尻が後ろに引かれた姿勢 | アドレス | 骨盤が後傾して腰が丸まる(Cポスチャー)、または反りすぎる(Sポスチャー) |
| 股関節で回す | 大腿骨に対して骨盤が回る=股関節の内旋・外旋 | スイング全体。バックスイングは右股関節の内旋、ダウンスイングは左股関節の内旋 | 骨盤が回らず横に流れる(スライド)、腰椎で回して腰痛 |
レッスン記事では、右股関節に乗り、ダウンで左股関節に乗ることで全身の力をボールに伝える、と説明されます。アドレスでの「入れる」は、お尻が上がった状態を思い浮かべると分かりやすいとも書かれています。いずれも正しい説明ですが、ここに1つ抜けている前提があります。股関節がその角度まで動く身体になっているか、です。
スイング中、股関節はどれだけ動いているか(実測)
女子大学生ゴルファー15名の股関節をモーションキャプチャで測った研究(Gulgin ら、2010)があります。ダウンスイングでリード側(左)股関節の内旋は平均34.8度でした。この選手たちが荷重した状態で持っていた左股関節の内旋可動域は平均26.5度。つまりスイング中に使っている量は、持っている可動域の84〜131%。上限ぎりぎり、あるいは上限を超えていたことになります。
| 局面 | 使われる動き | スイング中の実測 | 持っている可動域に対する割合 |
|---|---|---|---|
| バックスイング | 右(トレイル)股関節の内旋 | — | 約20〜25% |
| バックスイング | 左(リード)股関節の外旋 | 29.7度 | 約50〜75% |
| ダウンスイング | 右(トレイル)股関節の外旋 | — | 約34〜37% |
| ダウンスイング | 左(リード)股関節の内旋 | 34.8度 | 約84〜131% |
この表が示しているのは、「左股関節に乗って回る」動きは、多くのゴルファーにとって可動域の限界で行われている、ということです。だから左股関節の内旋が少し足りないだけで、身体はどこか別の場所で回旋を作らなければならなくなります。その「別の場所」が腰椎です。
股関節が動かないと、腰が代わりに動く
男子プロ30名(ハンディキャップ0)を、股関節内旋が20度未満のグループと30度以上のグループに分けて比べた研究(Kim ら、AJSM 2015)があります。内旋が少ないグループは、スイング中に腰椎の屈曲、左右への回旋、右への側屈が有意に大きく、骨盤の後傾も大きかった。腸腰筋とハムストリングの筋長も短くなっていました。プロであっても、股関節が回らなければ腰で代償する。技術では埋まらないということです。
代償は腰痛につながります。プロ42名の調査(Vad ら、AJSM 2004)では、リード側股関節の内旋と腰椎伸展の可動域が少ないことが、腰痛の既往と関係していました。アマチュアでも同じで、腰痛のあるゴルファー28名と無い36名を比べた研究(Murray ら、2009)では、リード股関節の受動的な内旋が腰痛群で21.1度、対照群で31.1度。約10度の差がありました。非リード側や外旋には差がなく、腰痛と結びついていたのは「左股関節の内旋」に絞られています。
「股関節を使え」と言われて意識だけで回そうとすると、動かない股関節の代わりに腰が回ります。それが続くと、当ジムの記事ゴルフの腰痛は「腰」が原因ではないで書いた状態になります。腰痛の出どころが腰ではなく股関節にあることが多い理由は、この構造です。
股関節の制限が生むスイングエラー
TPIは、スイングの崩れ方と身体の制限の対応を、9万人以上のスクリーニングから整理しています。股関節に関係するものを抜き出します。
| スイングエラー | 何が起きているか | 関係する股関節の制限(TPIの整理) | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|
| スウェー | バックスイングで下半身が目標と逆方向に流れ、体重が右足の外側に乗る | 右股関節の内旋不足。回れないので横に流れる | スウェーの直し方 |
| スライド | ダウンスイングで下半身が目標方向に流れる | 左股関節の内旋不足。左に「乗って回る」ができないので流れる | 同上 |
| アーリーエクステンション | ダウンスイングで下半身がボール方向に突っ込む。アマチュアの約67%に見られる | 深いスクワットや股関節の屈曲(ヒップヒンジ)ができない | アーリーエクステンションの直し方 |
| ハンギングバック | ダウンで左に乗れず、右足に体重が残る | 左股関節・足首の可動域不足、または左脚と体幹の安定性不足 | ハンギングバックの直し方 |
| Sポスチャー | アドレスで腰が反りすぎる | 股関節前面(腸腰筋)と腰のタイトネス、腹筋・お尻の弱さ | CポスチャーとSポスチャー |
「股関節の使い方が悪い」と言われるスイングエラーは、実はこの表のどれかに当たります。そして表の右列は、全部が意識ではなく可動域か安定性の話です。14種類のスイングエラーと身体の対応はスイングエラー14種完全ガイドにまとめています。
意識で直そうとして腰を痛める前に、股関節の内旋・外旋、骨盤の前後傾、深いスクワットができるかを測ります。左右差まで数値で出し、レポートPDFでお渡しします。
TPIフィジカルアセスメントの詳細を見る自宅で確かめる3つのテスト
TPIのスクリーニングのうち、股関節に関わる3つを自宅でできる形にしました。スマートフォンで横から・正面から撮ると判定しやすくなります。
下半身回旋テスト——「回す」の可動域
片脚に全体重を乗せ、反対の脚は膝を曲げてつま先だけ床に添える。両手を腰に置き、骨盤を左右にできるだけ回す。TPIの基準は左右とも60度以上。片側だけ回らない、回すと上体が一緒に動く、バランスを崩す、のどれかがあれば制限ありです。左脚立ちで右に回れないなら左股関節の内旋不足で、スライドとハンギングバックが疑われます。
骨盤前後傾テスト——「入れる」の可動域
アドレスの姿勢を取り、脚と上体を動かさずに骨盤だけを前後に傾ける。合格は、膝と上体がほぼ動かないまま骨盤だけが前傾・後傾できること。骨盤を前に傾けようとすると腰が反る、後ろに傾けようとすると膝が曲がる、という人は、股関節を「入れる」動きが骨盤単独ではできていません。
オーバーヘッド・ディープスクワット——「乗る」の前提
棒(クラブでよい)を頭の上に持ち、かかとを床に着けたまま太ももが水平より下までしゃがむ。上体はすね(脛骨)と平行かそれより立っていること、膝は足の真上、つま先は正面。かかとが浮く、太ももが水平まで下がらない場合、深く股関節を曲げて体重を受ける能力が足りません。TPIは、これができない人がダウンスイングで前傾を保つのはほぼ不可能で、アーリーエクステンションが出ると説明しています。
3つとも合格なら、股関節の使い方の問題は「感覚」と「技術」の側にあり、レッスンで直る可能性が高い。1つでも不合格なら、先に身体を整える必要があります。16項目すべての説明はTPI 16項目の全解説にあります。
練習の順序——可動域、感覚、スイング
股関節の使い方を身につける順序は、①可動域を確保する → ②「乗る」感覚を身体で覚える → ③スイングで使う、です。多くの人は①を飛ばして③をやります。それで腰が代償するのが、先ほどの研究データの構造です。
可動域——股関節の内旋・外旋と屈曲を出す
90/90ヒップスイッチ(床に座り、両膝90度で左右に股関節を切り替える)、ハーフニーリングでの股関節前面のストレッチ、かかとを床に着けたディープスクワットの保持。左右差がある側を1.5倍やる。目安は2〜3週間、毎日5分。
感覚——「乗る」を片脚で覚える
片脚デッドリフト(クラブを持ち、股関節を折って上体を前に倒す)で、お尻の上部に体重が乗る感覚を作る。次に、アドレス姿勢で右股関節→左股関節へ、骨盤を回しながら体重を移す素振りなしのドリル。上体が横に流れたら、それがスウェーとスライドの正体です。
スイング——足元の圧力で確認する
ここからがレッスンプロの領域です。当ジムではコーチと連携し、身体側の条件(可動域・左右差)を共有して技術指導につなげています。切り返しでどちらの足に圧力があるかは地面反力の記事で扱いました。
股関節の使い方で悩む人の相当数が、手打ちも指摘されています。手打ちの原因が股関節にある理由はゴルフの手打ちが直らない本当の理由で解説しました。
現場で見えていること
当ジムの身体評価で「股関節の使い方が分からない」と相談される方を測ると、左右の股関節の内旋に差がある方がほとんどです。多いのは、右股関節は回るのに左が回らないパターン。この方はバックスイングは問題なく、ダウンで左に乗れず、スライドかハンギングバックが出ます。レッスンで「左に乗れ」と言われ続けて、乗ろうとするほど腰が痛くなった、という方も少なくありません。
逆に、可動域は十分あるのに乗れない方もいます。この場合は片脚でのバランスと体幹の安定性が足りず、乗った瞬間に崩れるので身体が乗ることを避けています。可動域を増やしても変わらず、片脚の安定性を作ると乗れるようになります。同じ「乗れない」でも手当てが違う。ここを最初に切り分けるために、身体評価を行っています。役割の分担はゴルフのパーソナルトレーニングのページにまとめました。
よくある質問
「股関節に乗る」感覚が分かりません。どうすればいいですか?
先に、乗れる身体になっているかを確かめてください。下半身回旋テストで左右60度以上回り、かかとを着けたまま深くしゃがめるなら、感覚の問題なので片脚デッドリフトなどで覚えられます。どちらかができないなら、感覚の前に可動域か安定性が足りていません。意識だけで乗ろうとすると腰で代償します。
股関節が硬いと、どのスイングエラーが出ますか?
右股関節の内旋不足はスウェー、左股関節の内旋不足はスライドとハンギングバック、深く曲げられないとアーリーエクステンションが出やすくなります。TPIの9万人以上のスクリーニングでは、アマチュアの約67%にアーリーエクステンションが見られます。
股関節を使おうとすると腰が痛くなります。なぜですか?
股関節が回らない分を腰椎が代わりに回しているためです。股関節内旋が20度未満のプロは腰椎の屈曲・回旋・側屈が大きくなるという研究があり、腰痛のあるアマチュアはリード股関節の内旋が約10度少ないという報告もあります。痛みがある間は無理に回さず、医療機関で確認したうえで可動域から整えてください。
ストレッチで股関節の可動域は広がりますか?
関節の構造で決まっている分は変わりませんが、筋肉のタイトネスによる制限は改善できます。8週間のゴルフ専用エクササイズで股関節・体幹・肩の柔軟性が有意に改善し、クラブスピードと飛距離も増えたという研究(Lephart ら、2007)があります。ただしどこが制限しているかで種目が変わるので、先に測ることを勧めています。
レッスンとトレーニングはどちらを先に受けるべきですか?
自宅の3テストで1つでも不合格なら、身体を先に整えるほうが遠回りになりません。すべて合格なら、レッスンで感覚と技術を覚える段階です。当ジムでは身体評価の結果をレッスンコーチと共有する形でも進めています。
体験のご案内
「股関節を使え」と言われ続けて直らないなら、使い方ではなく、使える身体になっているかを一度確かめてください。体験セッションでは、股関節の可動域と左右差、片脚の安定性を測り、何から手を付けるべきかをその場でお伝えします。
First Trial
「乗れない」理由が可動域か安定性かを
身体から見つける90分
カウンセリング・身体評価・トレーニング体験まで。体験後に入会を決めていただく必要はありません。基本的に代表の岡本隼人が担当します。
ウェア・タオル無料 | 完全個室 | 六本木駅徒歩4分
- Gulgin H, Armstrong C, Gribble P. Weight-bearing hip rotation range of motion in female golfers. N Am J Sports Phys Ther. 2010;5(2):55-62.(n=15。ダウンスイングのリード股関節内旋34.8±11.7度、可動域の84〜131%を使用)
- Kim SB, You JS, Kwon OY, Yi CH. Lumbopelvic kinematic characteristics of golfers with limited hip rotation. Am J Sports Med. 2015;43(1):113-120.(男子プロ30名。内旋20度未満群で腰椎の屈曲・回旋・側屈が有意に大きい)
- Vad VB, et al. Low back pain in professional golfers: the role of associated hip and spine range of motion. Am J Sports Med. 2004;32(2):494-497.(n=42。リード股関節内旋と腰椎伸展の制限が腰痛既往と関連)
- Murray E, et al. The relationship between hip rotation range of movement and low back pain prevalence in amateur golfers. Phys Ther Sport. 2009;10(4):131-135.(腰痛群n=28・対照n=36。リード股関節受動内旋21.1度対31.1度)
- Lephart SM, et al. An eight-week golf-specific exercise program improves physical characteristics, swing mechanics, and golf performance in recreational golfers. J Strength Cond Res. 2007;21(3):860-869.(n=15。柔軟性・クラブスピード・飛距離が有意に改善)
- Titleist Performance Institute. The Lower Quarter Rotation Test/The Pelvic Tilt Test/The Overhead Deep Squat Test/Sway・Slide・Early Extension・Hanging Back・S-Posture(mytpi.com)。アーリーエクステンションはスクリーニング9万人以上の約67%。

