飛距離を伸ばす方法として、筋トレ、スイングの改造、新しいドライバーなどがよく挙がります。どれも間違いではありませんが、効く場所が違います。ヘッドスピードが足りないのか、芯に当たっていないのか、弾道が合っていないのか。原因がどこにあるかで、やるべきことは変わります。この記事では、計測器メーカーTrackManの公表データと研究をもとに、飛距離が決まる仕組みを整理し、身体・スイング効率・クラブの3つの分担と、年代ごとの優先順位、12週間の進め方の例、腰を守る線引きまでをまとめました。各論は既存の記事に詳しく書いているので、ここでは全体の地図を示し、必要な記事へ案内します。
この記事は、六本木の完全個室パーソナルジム Disport World で、TPI認定(Fitness 2/Power 2)と日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)の岡本隼人が、ゴルファーの身体を実際に測ってきた経験から書いています。扱うのは主に身体の側の原因で、スイング技術とクラブは役割分担として説明します。ゴルフの身体づくり(記事一覧・体験)→
・ドライバーの飛距離は、ボール初速・打ち出し角・スピン量でほぼ決まる。ボール初速は「ヘッドスピード×ミート率(スマッシュファクター)」
・TrackManの公表値:クラブスピード1mph(約0.45m/s)でドライバーの飛距離は最大約3ヤード、ボール初速1mphで最大約2ヤード伸びる
・同じくらいのスピードでも飛距離は違う。LPGAツアー平均はクラブスピード96mphでキャリー223ヤード、平均的な男性アマチュアは93.4mphで204ヤード(TrackMan公表、年は別)
・身体のトレーニング33研究のメタ分析(Johansen ら、2026):対照群と比べてヘッドスピード+1.05m/s、キャリー+9.33m。ただし証拠の確実性は「低い」
・年代で優先順位が変わる。国の体力調査では、男性の握力は50代前半でも20代前半とほぼ同じなのに、立ち幅とびは約85%。先に落ちるのは「速く出す力」
ゴルフの飛距離は何で決まる?——ボール初速・打ち出し角・スピンの3つ
ドライバーの飛距離は、ボールがフェースを離れた瞬間の3つの数字、つまりボール初速、打ち出し角、スピン量でほぼ決まります。このうち最も大きいのがボール初速で、ボール初速は「ヘッドスピード×ミート率」で決まります。飛距離を伸ばすとは、この3つのどれか、または複数を良い方向へ動かすことです。
弾道計測器のTrackManは、それぞれの数字を次のように定義しています。クラブスピード(日本でいうヘッドスピード)は「ボールに当たる直前の、クラブヘッドの幾何学的な中心の速さ」。ボールスピード(ボール初速)は「フェースから離れた直後のボールの重心の速さ」。スマッシュファクター(日本でいうミート率)は「ボールスピードとクラブスピードの比」で、ボールスピード÷クラブスピードで求めます。たとえばクラブスピード100mphでミート率1.50なら、ボール初速は150mphです。TrackManは、ドライバーでは1.50に近い値を目指すとしていて、PGAツアーとLPGAツアーの平均はどちらも1.49です。
打ち出し角は「ボールが飛び出す、水平に対する上下の角度」で、TrackManはインパクトの瞬間の実際のロフト(ダイナミックロフト)と強く関係すると説明しています。スピン量はボールの回転数で、ドライバーでは多すぎると吹き上がって前に進まず、少なすぎるとボールが上がりきらずに落ちます。TrackManは、打ち出し角とスピン量の最適な組み合わせは、その人のクラブスピードとボールスピードによって変わるとしています。
| 数字 | 何で決まるか | 主に関わる分担 | TrackManの公表値(ドライバー) |
|---|---|---|---|
| ボール初速 | ヘッドスピード×ミート率 | ヘッドスピード=身体/ミート率=スイング効率 | PGAツアー平均171mph(76.4m/s)、LPGAツアー平均143mph(63.9m/s)。ボール初速1mphで飛距離は最大約2ヤード |
| (内訳)ヘッドスピード | 身体が出せる力と、その力をかけられる距離・順序 | 身体 | PGAツアー平均115mph(51.4m/s)、LPGAツアー平均96mph(42.9m/s)。1mphで飛距離は最大約3ヤード |
| (内訳)ミート率 | 芯で当たるか、フェースの向きと軌道のずれ | スイング効率 | ツアー平均1.49。目標は1.50付近 |
| 打ち出し角 | インパクトの実際のロフト、上から入るか下から入るか(アタックアングル) | クラブ+スイング | PGAツアー平均10.4度、LPGAツアー平均12.6度 |
| スピン量 | ロフト、アタックアングル、当たる場所、ボール・シャフト・ヘッドの特性 | クラブ+スイング | PGAツアー平均2,545回転、LPGAツアー平均2,506回転 |
表のm/sは、1mph=0.44704m/sで当方が換算した値です。「1mphで最大約3ヤード」「最大約2ヤード」は、TrackManが「up to」と書いている上限の目安で、誰でもそのまま伸びるという意味ではありません。打ち出し角とスピンが合っていなければ、スピードが上がっても飛距離に変わりきらないからです。この関係は、次のプロとアマチュアの比較でよく見えます。
| 項目(ドライバー) | PGAツアー平均 | LPGAツアー平均 | 平均的な男性アマチュア |
|---|---|---|---|
| クラブスピード | 115mph(51.4m/s) | 96mph(42.9m/s) | 93.4mph(41.8m/s) |
| ボール初速 | 171mph | 143mph | 記載なし |
| 打ち出し角 | 10.4度 | 12.6度 | 12.6度 |
| スピン量 | 2,545回転 | 2,506回転 | 3,275回転 |
| アタックアングル | −0.9度 | +2.8度 | −1.6度 |
| キャリー | 282ヤード | 223ヤード | 204ヤード |
ツアーの値はTrackManの2024年の記事、男性アマチュアの値はTrackManの2017年の記事(「平均的なアマチュア男性」)から取りました。年が違うので厳密な比較ではありませんが、傾向ははっきりしています。LPGAツアーの平均と男性アマチュアのクラブスピードは3mphほどしか違わないのに、キャリーは約19ヤード違います。打ち出し角は同じ12.6度。大きく違うのはスピン量(2,506回転と3,275回転)と、アタックアングル(+2.8度と−1.6度)です。つまり平均的な男性アマチュアは、スピードの問題だけでなく、「上から入ってスピンが多い」弾道で距離を失っている可能性が高い。飛距離を伸ばす方法が1つでない理由はここにあります。年代別・男女別のヘッドスピードの平均はヘッドスピードの平均(年齢別・男女別)にまとめているので、自分の数字の位置はそちらで確かめてください。mphとm/sの換算や、ボール初速からヘッドスピードを逆算する方法はヘッドスピード・ボール初速・飛距離の換算表にまとめています。
飛距離はどこから取り戻せる?——「速さ」「当たり」「弾道」に分けて考える
飛距離の伸びしろは、「速さ(ヘッドスピード)」「当たり(ミート率)」「弾道(打ち出し角とスピン)」の3つに分けて考えると整理できます。それぞれ主に担当するのが、身体、スイング効率、クラブです。どこにいちばん大きな伸びしろがあるかは人によって違い、測ってみないと分かりません。
たとえば、ヘッドスピードは十分あるのにミート率が低い人は、筋トレより先に当たりの安定を考えるべきです。ヘッドスピードもミート率も平均的なのにスピンが多すぎる人は、クラブとアタックアングルを見直す余地があります。ヘッドスピードそのものが年々落ちている人は、身体の側に原因を探すことになります。3つは互いに関係していて、身体が回らないとスイングが崩れて当たりが悪くなり、当たりが悪いとスピンも乱れます。それでも入口を分けておくと、「何をやっても飛ばない」という状態を避けられます。
| 伸びしろ | 見る数字 | 主な担当 | 動かし方 | 確かめられていること |
|---|---|---|---|---|
| 速さ | ヘッドスピード | 身体(トレーニング) | 回旋の可動域・片脚の安定性・地面を押す力・パワーを作る | トレーニング研究の平均で+1.05m/s(33研究のメタ分析、確実性は低い) |
| 当たり | ミート率 | スイング効率(レッスン+身体) | 芯で打つ、フェースの向きと軌道をそろえる、身体を順番どおりに使う | TrackMan:トゥ・ヒールの当たりや、こすり球(フック・スライス、上から打ち込みすぎ)でボール初速は下がる |
| 弾道 | 打ち出し角・スピン量 | クラブ(フィッティング)+アタックアングル | ロフト・ヘッド・シャフト・ボールを合わせる、下から入る軌道に近づける | TrackMan:すべてのゴルファーはクラブスピードとボールスピードに合わせて打ち出し角とスピンを最適化するべき |
ヘッドスピードがゴルフの腕前とどれだけ結びついているかについては、18〜80歳の男性ゴルファー45名のヘッドスピードとハンディキャップを比べた研究があります(Fradkin ら、2004)。ハンディキャップが少ない人ほどヘッドスピードが速く、両者の相関はr=0.950ととても強いものでした。ただし、これは「速い人ほどうまい」という関係で、「速くすればうまくなる」という因果を示したものではありません。うまい人は速く振れる身体と、その速さを当たりに変える技術の両方を持っている、と読むのが正確です。
トレーニングでどれだけ速くなるかは、2026年のメタ分析が最もまとまった答えです。4週間以上の身体のトレーニングを調べた33研究・798名を集め、対照群のある26研究で比べると、トレーニングした群は対照群よりヘッドスピードが1.05m/s(約2.3mph)、ボール初速が2.20m/s、キャリーが9.33m(約10ヤード)、トータル飛距離が10.55m伸びていました(Johansen ら、2026)。研究者は、身体のトレーニングがゴルフのパフォーマンス準備の意味ある要素だと結論づけていますが、証拠の確実性はすべて「低い」と評価しています。これは集団の平均で、伸び幅は人によって違います。どんな種目で、何週間で、何m/s上がったかの研究ごとの内訳はヘッドスピードを上げるトレーニング(33研究の答え)で詳しく解説しています。
①身体:ヘッドスピードを支える4つの条件は?——回旋の可動域・安定性・地面を押す力・パワー
身体の側でヘッドスピードを決めるのは、回旋の可動域、片脚と体幹の安定性、地面を押す力、そして短い時間で力を出すパワーの4つです。TPI(Titleist Performance Institute、ゴルファーの身体評価を教える米国の機関)は、ヘッドスピードを上げる道は「クラブに大きな力をかける」か「より長い距離にわたって力をかける」かの2つだと説明しています。可動域は力をかけられる距離を、安定性と地面を押す力とパワーは力の大きさを決めます。
回旋の可動域——力をかけられる「距離」を作る
股関節と胸椎(胸の背骨)が回らないと、クラブを加速させる道のりが短くなります。さらに、回らない場所の代わりに別の場所が動き、スイングが崩れます。TPIは、下半身の回旋(片脚に乗って骨盤を回す動き)が左右とも60度に届かないと、スイングで余計な横の動き(スウェーとスライド)が出やすいとしています。胸椎の回旋が足りない場合は、腰椎に過剰な回旋の力がかかるか、肩関節を使いすぎて補う可能性があるとしています。可動域は「速さの材料」というより「速く振っても崩れないための前提」です。実際、ヘッドスピードと身体の関係を調べた20研究のメタ分析(Brennan ら、2024)では、柔軟性とヘッドスピードの間に有意な関連は見られませんでした。柔らかければ飛ぶわけではなく、足りないと邪魔になる、という位置づけです。胸椎の回し方は胸椎の回し方で、股関節の使い方は股関節の使い方で解説しています。
安定性——回っても軸が流れない土台を作る
可動域があっても、乗った脚と体幹が身体を支えられなければ、回る代わりに横へ流れます。TPIはキネマティックシーケンス(身体を使う順番)を「骨盤、胴体、腕、クラブの順に動き、それぞれのピークの速さは前のものより速く、しかも遅れて来る」と定義しています。順番の起点は骨盤で、骨盤を回すには片脚で立って支える力が要ります。片脚の安定性が左右で違う人は、その側で回れずに力が逃げます。体幹で回旋の力を受け止めて伝える考え方は体幹トレーニングと回旋パワーで、横流れの直し方はスウェーの直し方でまとめています。
地面を押す力——足から力を生む
ゴルフのスピードは足元から始まります。TPIは、自分たちが測ったPGAツアー選手の平均で、スイング中に地面を垂直に押す力は体重の198%だと公表しています。体重のおよそ2倍です。TPIは、垂直方向に押す力を「ヘッドスピードと最も密接に関係する運動力学の変数の1つ」としていて、スピードの速い選手は押す力のピークがダウンスイングの早い段階に来て、遅い選手はインパクト近くにずれる傾向を紹介しています。押す強さだけでなく、押すタイミングも問題になるということです。
パワー——短い時間で大きな力を出す
ダウンスイングは一瞬で終わるので、時間をかけて出す最大筋力より、短い時間で出せる力が問われます。前述のメタ分析(Brennan ら、2024)では、ヘッドスピードとの関連が最も強かったのはジャンプの力積(zr=0.82)で、上半身の爆発的な力(0.67)、ジャンプのピークパワー(0.66)が続き、下半身の筋力(0.47)と上半身の筋力(0.48)はそれより弱い関連でした。zrは関連の強さを比べるための指標で、ここで言えるのは「速く大きな力を出せる人ほどヘッドスピードが速い傾向がある」という相関までです。
では筋力は要らないのかというと、そうではありません。TPIのアドバイザリーボードのジェイソン・グラスは、まず筋力が足りているかを確かめ、足りていればスピードの練習へ、足りなければ6〜8週間の筋力プログラムを先に行う、という判断の順番を示しています。目安はスプリットスクワットで体重の150%(体重+両手のダンベルで体重の50%)を左右とも8回。同じ記事は、筋力があるだけでは速さとパワーは保証されない、とも書いています。土台の筋力を作り、その筋力を速く出す練習へつなげる、という順番です。
下半身回旋テスト(可動域)
片脚に全体重を乗せ、反対の脚は膝を曲げてつま先だけ床に添える。両手を腰に置き、立っている脚の向きを変えずに骨盤をできるだけ回す。TPIの基準は「左右とも60度以上」。片側だけ届かない、上体が一緒に回る、ふらつく場合は、その側が回旋の弱点です。
座位体幹回旋テスト(可動域)
膝と足をそろえて座り、背筋を伸ばして、クラブを肩の後ろに担ぐ。下半身を動かさずに上体を右と左へ回す。TPIの目安は「左右とも45度を超える」。肩甲骨だけを寄せて回ったように見せないことが大切です。
スプリットスクワット(筋力)
前後に脚を開いて腰を真下へ下ろし、立ち上がる。TPIの関係者が示す目安は「体重の150%を左右とも8回」。いきなり重さを持たず、自分の体重だけで左右10回ずつ、膝や腰に痛みなくできるかから確かめてください。
ここで紹介したのはTPIの16項目のうちの一部です。16項目すべての手順と合格の目安はTPI診断16項目の全解説に、体づくりをどの順で進めるかはゴルフのトレーニングは何から始める?にまとめています。握る力とクラブの扱いが気になる方は握力と前腕もあわせてどうぞ。
テストやスクワットの最中に、腰・股関節・膝に鋭い痛みや詰まりが出たら、そこで中止してください。反動をつけて回す、腰を反らせて角度を稼ぐ、といった代償は、可動域が増えたように見えて腰に負担を移すだけです。重りを持つ筋力テストは、自重で痛みなくできることを確かめてから、少しずつ重さを足してください。
下半身回旋(基準60度)、座位体幹回旋(45度)、骨盤回旋、片脚バランスを含むTPIの16項目を実測します。左右で測る項目は両側とも判定し、どの制限がどのスイング特性と結びつきやすいかを、評価レポート+プログラムPDFにまとめてお渡しします。
TPIフィジカルアセスメントの詳細を見る②スイング効率:同じヘッドスピードで遠くへ飛ばすには?——芯で打つこととキネマティックシーケンス
同じヘッドスピードでも、スピードをボール初速に変える効率が高ければ、飛距離は伸びます。その効率を示すのがミート率で、ドライバーの目標は1.50付近、ツアー平均は1.49です。効率を上げる要素は、芯で打つこと、フェースの向きと軌道をそろえること、そして身体を順番どおりに使ってスピードをクラブへ届けることです。
TrackManは、トゥやヒールで当たるとボール初速は落ち、フックやスライス、上から打ち込みすぎた「こすれた当たり」でもボール初速は下がると説明しています。一方で、TrackManの記事に登場するコーチのアンドリュー・ライスは、ミート率は「芯に当たったかどうか」だけを表す数字だと誤解されがちだが、本当はクラブのスピードがどれだけボールのスピードに変わったかを表す数字だ、と注意しています。芯を外していなくても、フェースが開いたまま当たれば効率は落ちます。
アタックアングル——下から入るか、上から入るか
ドライバーで見落とされやすいのがアタックアングル(ヘッドが上下どちらの向きからボールに入るか)です。TrackManの公表値では、PGAツアー平均は−0.9度、LPGAツアー平均は+2.8度でした。男性アマチュアは、TrackManの計測データ(Combine)でハンディキャップ14.5が−1.8度、ボギーゴルファーが−2.1度です(上の比較表の−1.6度は2017年の別の記事の値)。マイナスは上から下へ打ち込んでいる状態です。TrackManは、ドライバーで飛距離を最大にするには下から上へ打つ(アタックアングルをプラスにする)ことが欠かせないとしています。冒頭の比較表で、LPGAの選手が男性アマチュアより少ないスピン量で遠くへ運んでいた一因は、ここにあると考えられます。
身体を使う順番——キネマティックシーケンス
スピードを効率よくクラブへ届けるには、身体を順番どおりに使う必要があります。TPIの定義では、骨盤、胴体、腕、クラブの順に動き、それぞれのピークの速さは前より速く、しかも遅れて来るのが正しい順番です。順番が崩れると、腕だけで振る、上体が先に開く、といった形になり、スピードの割に当たりが安定しません。上半身と下半身を分けて回す力(捻転差)は捻転差(Xファクター)で解説しています。
ここで身体の話に戻ります。スイングの崩れの中には、身体の制限から起きているものがあります。TPIは、スクリーニングした9万人超のゴルファーの67%に、ダウンスイングで骨盤がボールに近づき上体が起き上がるアーリーエクステンションが見られたと公表しています(2013年)。TPIは、かかとを床につけたまま深くしゃがめないと、ダウンスイングで前傾を保つのは「ほぼ不可能」とも説明しています。このように身体の側に理由がある崩れは、レッスンで形を直しても、ラウンドの後半やプレッシャーのかかる場面で戻りやすい。直し方はアーリーエクステンションの直し方で、スイング特性全体の地図はスイングの崩れ14種のガイドで紹介しています。
役割分担をはっきりさせておくと、スイングの形そのものを作るのはレッスンの領域です。当店のTPI測定はスイング解析ではなく、その形を作るための可動域と安定性が身体にあるかを測るものです。身体の条件が分かると、コーチも技術の指導を組み立てやすくなります。
③クラブ:ドライバーを替えれば飛ぶ?——打ち出し角とスピンを合わせるフィッティングと、規則の上限
クラブが飛距離に最も効くのは、打ち出し角とスピン量を、その人のスピードに合わせられる点です。TrackManは、すべてのゴルファーがクラブスピードとボールスピードに基づいて、打ち出し角とスピン量の最適な組み合わせになるようフィッティングを受けるべきだとしています。一方で、フェースの反発には規則で上限があり、クラブだけでボール初速を大きく上げることはできません。
TrackManの計算(オプティマイザー)では、クラブスピード94mph・アタックアングル0度でキャリーが最大になる条件は、打ち出し角13.6度・スピン量2,772回転とされています。冒頭の比較表の平均的な男性アマチュアは、ほぼ同じスピードで打ち出し角12.6度・スピン量3,275回転でした。打ち出しがやや低く、スピンが500回転ほど多い。この差を縮めるのが、ロフト、ヘッド、シャフト、ボールの組み合わせと、アタックアングルの見直しです。TrackManの記事に登場するコーチも、打ち出し角が高すぎても低すぎても飛距離を失うので、フィッティングでは打ち出し角とスピン量を正しく組み合わせることが大切だと話しています。
ただし、クラブには規則の上限があります。R&AとUSGAは、ドライバーのフェースのばねのような効果(反発)を振り子の試験で測り、キャラクタリスティックタイム(CT)の上限を239マイクロ秒(許容差18マイクロ秒)としています(2015年の製造者向け通知)。ボールにも飛距離の基準があり、R&AとUSGAは2023年12月に試験条件の変更を発表しましたが、2026年6月の製造者向け通知で「2030年1月まで変更しない」とし、別の方法も含めて検討を続けるとしています。反発と飛距離に上限がある以上、クラブの主な役割は「スピードを生む」ことより「生んだスピードを弾道に正しく変える」ことにあります。
身体のトレーニングとの順番で考えると、TrackManが言うように最適な弾道はクラブスピードとボールスピードで変わるので、トレーニングでヘッドスピードが変わったあとに弾道を測り直す意味があります(これは当方の考え方です)。フィッティングは、弾道計測器のある専門の施設で受けてください。
年代で何から手をつける?——40代・50代・60代の優先順位
40代から60代で飛距離が落ちたと感じるとき、最初に疑うべきは筋力より「速く出す力(パワー)」と回旋の可動域です。国の体力調査では、男性の握力(筋力の項目)は50代前半まで20代前半とほぼ変わらないのに、立ち幅とび(筋パワーと跳ぶ力の項目)は40代前半で約9割、50代前半で約85%まで下がっています。年齢で先に落ちるのは、ゆっくり出す力より、一瞬で出す力です。
| 年齢(男性) | 握力の平均 | 20〜24歳を100とすると | 立ち幅とびの平均 | 20〜24歳を100とすると |
|---|---|---|---|---|
| 20〜24歳 | 44.68kg | 100 | 226.35cm | 100 |
| 40〜44歳 | 45.47kg | 101.8 | 202.49cm | 89.5 |
| 50〜54歳 | 44.39kg | 99.4 | 192.20cm | 84.9 |
| 60〜64歳 | 41.91kg | 93.8 | 174.45cm | 77.1 |
出典はスポーツ庁「令和6年度体力・運動能力調査」の統計表で、指数は当方の計算です。調査の概要は、握力は30〜40歳代でピークに達し、ほかの項目よりピークが遅いこと、ほとんどの項目がピーク以後は年齢とともに直線的に低下することを報告しています。立ち幅とびは地面を一気に押して跳ぶテストで、「①身体」の章で見た「ジャンプの力積・ピークパワーがヘッドスピードと強く関連する」という研究の結果と重なります。TPIも、50代のロングドライバーを評価した記事で、年齢を重ねた選手にとって可動域の低下は筋力の低下と同じくらい不利になりうると書いています。
| 年代 | まず確かめること | 優先して作るもの | 注意すること |
|---|---|---|---|
| 40代 | 回旋の可動域(下半身回旋・座位体幹回旋)の左右差、ミート率とアタックアングル | 回旋の可動域と片脚の安定性。弾道の見直し(クラブ・軌道) | 筋力はまだ保たれやすい。力任せに振って当たりを崩さない |
| 50代 | 立ち幅とびなど「速く出す力」、回旋の可動域 | 地面を押す力とパワー。土台の筋力が足りなければ先に筋力 | いきなりジャンプや全力の素振りから入らない。可動域と筋力の土台を先に |
| 60代以降 | 筋力そのもの(握力も下がり始める)、片脚で立つ安定性、痛みの有無 | 筋力と安定性を作り、そのうえで軽い負荷を速く動かす練習へ | 持病や痛みがあれば先に医師に相談。回復に時間をかける |
この表は、国の調査の傾向とTPIの考え方から当方が整理した優先順位で、個人に当てはまるかは測って確かめる必要があります。50代の飛距離については50代で飛距離が落ちた原因で、自宅でできる5つのテストや立ち幅とびの比べ方まで詳しく書いています。女性の飛距離は筋力の土台の考え方が少し違うので、女性ゴルファーの飛距離アップをご覧ください。
12週間でどう進める?——測る・動かす・支える・強くする・速くする、そして腰を守る
飛距離を伸ばすトレーニングは、「測る→可動域→安定性→筋力→パワーとスピード→測り直す」の順で、およそ12週間を1区切りにすると組み立てやすくなります。先に足りないものを測って決め、足りている段階は飛ばします。下は、当店で組む場合の一例です。研究で決まった正解ではなく、TPIの考え方(筋力が足りなければ6〜8週間の筋力プログラムを先に行う)をもとにした目安です。
第0週:測る
回旋の可動域(左右)、片脚の安定性、筋力、跳ぶ力を測り、弾道の数字(ヘッドスピード・ボール初速・打ち出し角・スピン)が分かれば一緒に並べます。ここで「速さ・当たり・弾道」のどこに伸びしろがあるかの見当をつけます。
第1〜4週:動く範囲を作る
基準に届かない関節(股関節の回旋、胸椎の回旋など)だけを、毎日の短いモビリティで基準まで近づけます。届いている関節は維持で十分です。
第3〜8週:支える・強くする
片脚の安定性と体幹で「回っても流れない」土台を作り、スプリットスクワットやヒンジ(お尻を引く動き)で筋力を上げます。TPIの関係者が示す目安(体重の150%で左右8回)に遠い人は、この段階を長めに取ります。
第7〜12週:速くする
土台ができてから、ジャンプ、メディシンボールの回旋投げ、軽い負荷を速く動かす種目で「一瞬で出す力」をヘッドスピードへつなげます。種目の選び方と研究はヘッドスピードを上げるトレーニングで。
第12週:測り直す
同じテストと同じ計測器で測り直し、何が変わったかを数字で確かめます。ヘッドスピードが変わっていれば、弾道(打ち出し角とスピン)も測り直し、必要ならフィッティングを見直します。
期間の目安について、研究から言えるのは、前述のメタ分析が4週間以上のトレーニングを対象にしていて、その平均でヘッドスピードが1.05m/s伸びていたことまでです。何週間で何m/s上がるかは個人差が大きく、ここで約束できるものではありません。大切なのは、12週間のあとに同じ方法で測り直し、伸びた分と伸びなかった分を分けて次の12週間を決めることです。ラウンド前の準備はラウンド前ウォームアップ15分にまとめています。
痛み・腰を守る線引き——「強く振る」より先に、回らない場所を作る
飛距離を追うと、身体が回らないまま強く振ることになりがちで、その負担は腰に集まります。TPIは、31,000人超のゴルファーから集めたデータで、28.1%がラウンドのたびに腰痛を抱えていると公表しています。そして、腰そのものが痛みの最初の原因であることはまれで、足首・股関節・胸椎・肩の動きの不足が腰に過剰な負担を背負わせることが、多くの腰のケガの主な原因だと説明しています。可動域を先に作る順番は、飛距離のためだけでなく腰を守るためでもあります。
実務上の線引きは3つです。1つ目、痛みがある状態でスピードの練習をしない。2つ目、可動域の不足を「反動」や「腰を反らせる動き」で補わない。3つ目、速く振る練習やジャンプは、可動域と筋力の土台を確かめてから少しずつ始める。腰の痛みとゴルフの関係はゴルフの腰痛で詳しく解説しています。
現場で見えていること
「飛距離が落ちた」と相談に来られる方の多くは、まずクラブかスイングを疑っています。測ってみると、片側だけ回旋が基準に届かない、片脚で立つと軸が流れる、地面を押す力が落ちている、といった身体の条件が重なっている方が少なくありません。この場合、クラブを替えてもスイングを直しても、身体が同じなら同じところで距離を失います。逆に、身体の条件は基準を満たしていて、弾道やアタックアングルの側に伸びしろがありそうな方もいます。その方には、トレーニングより先にフィッティングやレッスンでの確認をおすすめしています。
当店のTPIフィジカルアセスメントは、TPI公式のスクリーンをもとにした16項目を90分かけて実測し、16項目をP(基準を満たす)/L(制限あり)/F(基準の動きができない)の3段階で判定します。そのうえで、判定の組み合わせから14種のスイング特性の出やすさを根拠テストつきで示し、最初に取り組む3項目を決めて、評価レポートとプログラムのPDFにまとめてお渡しします。スイング解析は含みません。練習場やフィッティングで測ったヘッドスピードや弾道の数字があれば、身体の判定と並べることで、「速さ・当たり・弾道」のどこから手をつけるかを考えやすくなります。6週後に同じ16項目を測り直す再評価(¥15,000・税込)もあり、変化を数字で確かめられます。
もう1つよく見るのが、飛距離を戻そうとして素振りの量や力を増やし、腰や肩に張りを抱えてしまう方です。片側性の競技で同じ方向に振り続ける以上、身体が回らないまま振る量を増やすと、負担はいつも同じ場所にかかります。飛距離の伸びしろは「どれだけ強く振るか」より「どこで失っているか」から見つかることが多い、というのが現場の実感です。TPIそのものの考え方はTPIとはで、ツアー選手がTPIをどう使っているかはPGAツアー選手とTPIで紹介しています。
よくある質問
ゴルフの飛距離を伸ばす一番の方法は何ですか?
人によって違うので、まず「速さ(ヘッドスピード)」「当たり(ミート率)」「弾道(打ち出し角とスピン)」のどこで距離を失っているかを測ることです。ヘッドスピードが足りなければ身体、ミート率が低ければスイング効率、スピンや打ち出しが合っていなければクラブとアタックアングルが入口になります。
ヘッドスピードが1mph上がると、ドライバーの飛距離は何ヤード伸びますか?
TrackManは、クラブスピード1mph(約0.45m/s)で最大約3ヤード、ボール初速1mphで最大約2ヤード伸びるとしています。これは上限の目安で、打ち出し角とスピンが合っていなければ、スピードが上がっても飛距離に変わりきりません。
40代・50代で飛距離が落ちたのは年齢のせいですか?
年齢の影響はありますが、落ちるものには順番があります。国の体力調査では、男性の握力は50代前半でも20代前半とほぼ同じなのに、立ち幅とびは約85%でした。先に落ちるのは一瞬で出す力(パワー)なので、パワーと回旋の可動域を測って、落ちている所から取り戻すのが近道です。
筋トレで飛距離は伸びますか?
伸びたという研究がまとまっています。33研究のメタ分析では、4週間以上の身体のトレーニングで、対照群と比べてヘッドスピードが平均1.05m/s、キャリーが平均9.33m伸びていました。ただし証拠の確実性は低く、伸び幅には個人差があります。筋力だけでなく、速く出す練習と可動域づくりを組み合わせるのが基本です。
ドライバーを替えれば飛距離は伸びますか?
打ち出し角とスピンが合っていない人は、フィッティングで伸びる余地があります。TrackManの計算では、94mphでキャリーが最大になるのは打ち出し13.6度・スピン2,772回転で、平均的な男性アマチュアはスピンが3,275回転と多めでした。ただしフェースの反発には規則の上限があり、クラブだけでボール初速を大きく上げることはできません。
腰が痛いのですが、飛距離を伸ばすトレーニングをしてもいいですか?
痛みがある間は、速く振る練習やジャンプは控え、先に整形外科を受診してください。TPIは、腰が痛みの最初の原因であることはまれで、股関節や胸椎などの動きの不足が腰に負担を集めると説明しています。医師の許可が出てから、可動域と安定性を作る段階から始めるのが安全です。
TPI測定のご案内
飛距離を伸ばしたいなら、まず今の身体のどこで距離を失っているかを測ってください。TPIフィジカルアセスメントでは、回旋の可動域、片脚の安定性、骨盤と体幹の分離を含む16項目を実測し、最初に取り組む3項目を決めてお渡しします。まず動いて確かめたい方は体験トレーニングもお選びいただけます。
TPI Physical Assessment
飛距離を失っている場所を、
16項目の実測で見つける90分
TPIの16項目を実測し、どの身体の制限がどのスイング特性と結びつきやすいかを評価レポート+プログラムPDFにまとめてお渡しします。単発で完結し、入会は不要です(6週後の再評価は¥15,000・税込)。
まず動いて確かめたい方は、体験トレーニング(90分・¥15,000/毎月先着3名さま¥7,500)もお選びいただけます(先着枠は毎月1日起算、定員後は通常¥15,000)。
ウェア・タオル無料 | 完全個室 | 六本木駅徒歩4分
主な参考(タップで開く)
- Trackman Editorial Team. What is Club Speed/Ball Speed/Smash Factor/Launch Angle/Spin Rate/Attack Angle(trackman.com、2024年9月23日)。ツアー平均、アマチュアのハンディキャップ別の値、1mphあたりの飛距離、オプティマイザーの条件。
- Trackman Editorial Team. What is Carry(trackman.com、2024年3月25日)。PGA・LPGAツアーのキャリー平均。
- Hahn C. How to gain more distance without swinging faster(trackman.com、2017年7月7日)。平均的なアマチュア男性のクラブスピード・打ち出し角・アタックアングル・スピン・キャリー。
- Johansen MJ, Bishop C, Murray A, et al. Effects of Physical Training Interventions on Golf Shot Performance: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Med. 2026(オンライン先行). doi:10.1007/s40279-026-02531-3.(33研究・798名、対照群あり26研究)
- Brennan A, Murray A, Mountjoy M, et al. Associations Between Physical Characteristics and Golf Clubhead Speed: A Systematic Review with Meta-Analysis. Sports Med. 2024;54(6):1553-1577.(20研究)
- Fradkin AJ, Sherman CA, Finch CF. How well does club head speed correlate with golf handicaps? J Sci Med Sport. 2004;7(4):465-472.(男性ゴルファー45名、18〜80歳)
- Titleist Performance Institute. How Fast Eddie Generates 150 mph Clubhead Speed over the Age of 50(2022)/Ground Reaction Forces in the Full Swing vs. the Short Game/Kinematic Sequence Revisited/The Lower Quarter Rotation Test/The Seated Trunk Rotation Test/Early Extension Swing Characteristic(Dave Phillips、2013)/The Overhead Deep Squat Test(Greg Rose、2013)(mytpi.com)。
- Glass J. Strength vs Speed: The Secret Behind the World's Longest Hitters(mytpi.com、2017年9月22日)。
- Rose G. The Golfer's Guide to Lower Back Pain – Part 1(mytpi.com、2014年8月19日)。31,000人超のデータ。
- The R&A. Spring Effect and Dynamic Properties(製造者向け通知、2015年5月8日)/The R&A・USGA. Notice to Manufacturers re Distance Insights(2026年6月17日)。
- スポーツ庁. 令和6年度体力・運動能力調査報告書(統計数値表 表1-1・表1-3/調査結果の概要)。2025年。

